DAYS_

Mitsutoshi&Tomoko Takesue

世界一のバラック

パリ、ストラスブール、ナンシーと、3都市を巡った今回の買い付け旅。まずは、時間軸を遡るように最終地のナンシーからスタート。というのも、ジャン・プルーヴェの自邸見学という今回のメインイベントが帰国前日にようやく実現したからだ。事前にメールで何回かやりとりし「予約はいらない」とのことだが、今や”世界のプルーヴェ”のオリジナル自邸の今シーズン初のガイダンス・ツアーは定員15名である。世界中から僕らみたいな好き者がラッシュするやもしれず、ちゃんと入場できるか、結構不安もあったわけです。
ストリート・ビューで何度も確認したように、バスを降り、もと葡萄畑だった斜面を急いで登る。集合場所である80年代に建てられた、これもカッコいい2階建ての事務所に予定より30分早く着いてみると、オジサン二人がソロソロと準備中。僕らが一番乗りだった。開始の時間になっても、総員9名、すべてフランス人。なかには小さな子供連れの夫婦もいる。と、坂の上から同じく子供連れの夫婦が降りてきた。ぼくは、今自邸に住んでいる家族が、これから始まるガイド・ツアーのために家を明け渡すのだなー、と勝手に想像(正解でした)。なんだかユルイ感じがいい。
まずは、事前説明。これが長い。エリック・ロメールの映画から飛び出してきたような、若く小柄で美人ではない学芸員が、フランス語でプルーヴェの生い立ちから絶え間なくしゃべるのだが、もちろんチンプンカンプン。ただ、何回も出てくる「プラスティーク」というワードには反応。「えっ、プルーヴェの仕事にはプラスティック素材なんて使ってたっけ?」と、大いに疑問を持つ(後日、本来プラスティックには「造形」という意味があることを知り納得)。
そろそろカンベンして、と思った頃合いにいよいよ訪問スタート。急な坂を登ると、気持ちのいい緑の中から、作品集やDVDで見た光景が唐突に現れた。長屋のような軒の下にずーと続いた板のパネルとガラスの壁の先に、アルミ製で丸窓がたくさん付いた有名なドアがズラリと見える。「全体がコラージュだ!」と、これが第一印象。先頭を切って中に入り、さっそくiphoneでパチパチやり始めると、学芸員さんから「ノーフォト…」の言葉(このような状況には慣れっこのぼくは、その後も彼女の目を盗み、数枚パチリ)。まずいやでも目に入る壁一面に造られたシャーロット・ペリアンと共作した、作り付けの本棚に圧倒される(もしオークションに出たら数千、いや億超えかも、と下世話な想像)。そして、そこには今の住人さんの蔵書やオブジェがいかにも普通に並んでいる。他にキッチンやバスルームなど、建てられた時とほぼ同じ状態で今も活躍していること自体が、なんだかハッピーこのうえない。ややもすると「スクラップ&ビルド」の典型みたいにおもわれがちな「プレファブ住宅」だが、使う人の愛着があれば、充分に長持ちするのかもしれない。そして、細長い船室のような廊下に、「固定化することよりも移動すること」というナイーブな想像力を勝手に感じてしまうのだった。
全体でも、たぶん30坪くらいのコンパクトなプレファブ住宅は、1954年に、自分のアルミ工場が人手に渡ってしまった後のいわば失意の時期に、工場に残っていた建材を利用して自前で作った簡素なもの。それが、今では名だたる建築家の名建築と肩を並べるようなイコンとなっているのはちょっとした皮肉だ。でもそこには、自らを「建築家」ではなく「建設家」と呼んだように、自分の分身のような部材を使った、創意と工夫にあふれた空間が充満している。まちがいなく「世界一のバラック」を作ってしまった男なのだ。
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