DAYS_

Mitsutoshi&Tomoko Takesue

毎日開け閉めするたびに哲学してしまうだろう。

IMG_7636同じコルビュジェの建築と言っても、カップ・マルタンのキャバノンが筏(いかだ)だとすれば、マルセイユのユニテ・アビタシオンは大型客船のようだ。まるで、難民vs中流階級向け夢の集合住宅ほどの違いだ。いったい、その両方に共通するエスプリみたいなものがあるのだろうか。
18階建て、全337戸、約1,600人が暮らすことを前提とした建物は、写真で見るよりもずっと巨大だった。赤、青、黄色に塗り分けられたベランダの壁が、太陽光を浴びてリズミカルに踊っている。大きな図体を支えるのはピロテイと呼ばれる「モダン建築お約束」の柱たちで、全体はコンクリート打ちっぱなし。それも、木型の跡を荒々しく残した仕上げで、所々に貝殻を型押しした箇所がある。60年以上を経て、まるで石灰岩に残る海の記憶のような痕跡に、建築家ではなく、本当は画家を目指したという、アーティスト=ル・コルビュジェのサインを見た気がした。
IMG_2245コルビュジェという名前を名乗ったのは、第一次大戦後。戦争を引き起こした国家や社会の不条理さを告発するダダイズム運動に触発され、興味を持っていた建築を選択した頃のこと。アカデミックな建築家に対抗するかのように、次々に発表した詩的で挑戦的な方法論は、ダダイストそのもの。そして、一躍脚光を浴びる。でも、保守的な人々からの理解を得ることはなかった。斬新すぎたパリの都市計画は却下され、国際連盟や国際連合のビルなど、コンペで選ばれた大型プランも頓挫したものが多い。そのなかには、ソビエト共産党本部の会議場となる「ソビエト宮殿計画」もあった。かと思えば、第二次大戦中のフランスでは、ナチスの傀儡だったヴィシー政権に接近して、国家的プロジェクトへの意欲を見せている。シャーロット・ペリアンは「彼は政治的には左でも右でもない”ノンポリ”だった」と証言している。アーティストには、イデオロギーは不要なのかな。
IMG_2132ユニテ・アビタシオンには、店舗や郵便局、屋上には保育園、体育館、プール、庭園などが準備されていて、まるで理想のコミューンのよう。いわば社会性を帯びた”大きなイデオロギー”だ。ところが、ぼくが興味を持ったのは細部。たとえばペリアンがデザインを任された戸棚。独特の形状を持った木の引き手が、開けた時に、右と左が美しく合わさるように作られている。「美と用」を兼ね備えた、実に見事な解決法である。ぼくだったら、毎日開け閉めするたびに哲学してしまうだろう。”小さなイデオロギー”万歳。

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