DAYS_

Mitsutoshi&Tomoko Takesue

「眼に見えているもの以上に抽象的なものは何もない」

ぼくの眼鏡人生は、中学生だったころの近視から始まっている。その後、度が進み、乱視が加わり、加齢にともなって遠視になった。だから、メガネを作る際の検眼がとてもめんどくさい。遠近ともにピントを合わせるのは、至難の業なのだ。そのうえにコンピューターだ。遠近ではなく中近というあらたな視力の必要性が高まってしまった。挙げ句の果ては、飲み屋の品書きを、眼鏡をはずしてからじっくり見るという羽目に陥っている。そんな折、「そうまでして、一体何を見たいのか?」という、まるでコペルニクス的転回とでもいうべき展覧会に出会った。イタリアの画家ジョルジョ・モランディだ。故郷ボローニャを離れることなく、半世紀に渡り、テーブルに置いた瓶や水差しを、ひたすら描き続けたひとである。淡い濃淡で描かれた一連の絵は、配置やアングルなどが違うものの、一見するとどれも似たような印象を与える。モランディは、何を求めて執拗にこれらのStill Life=静物を描き続けたのだろう。「眼に見えているもの以上に抽象的なものは何もない」というモランディの言葉がすべてだ。IMG_4234

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