DAYS_

Mitsutoshi&Tomoko Takesue

もしホイアンで喧騒を逃れたくなったら。

IMG_8794「このエビの養殖池は、アメリカが落とした爆弾の跡です」。
半日ツアーのガイド、クーさんの言葉に驚いた。

こんな田舎にこんなデカイ爆弾落としたのか、とあきれた。

そこは中部ヴェトナムにあるホイアンという、日本の中世くらいの時代に西洋とアジアを結ぶ貿易路の中継地だった古い港町から自転車で5kmほど走った椰子畑。こんな田舎まで爆撃するなんて、まったくどうかしている。でも、その大きな穴を養殖池としてリサイクルするとは(たしかに、埋め戻すよりもそのまま使って残したほうが”歴史証拠”にもなることだし)、なんてしたたかな人々なんだろう。
クーさんは、30代半ばくらい。痩せて小柄で、サングラスとつば広の帽子を被っていると、まる精悍なヴェトコン兵士のように見えるが、このツアーの主催者でもあるのだ。サングラスと帽子を取ると、ぼくの若い友人の田中さんが日焼けしたように見えないこともない。なんというか、村で一番勤勉な頑張り屋さんといった感じだ。ここよりもっと田舎の村の出身で、ホイアンのホテルで働きながら英語を覚えたらしい。少し不思議なイントネーションだけど、早口で立派にジョークもこなす。クーさんはクールなのだ。
あたり一面青々とした稲の田んぼが広がるなかを、クーさんを先頭にした総勢8名の「ホイアン・ヴィレッジ・エクスペリエンス・ツアー」の一行は、気持ちの良い風に吹かれてペダルを漕いでいた。しばらく走ると田んぼの向こうに見える墓地を指差してクーさんが言った。
「みなさん、あれはなんだかわかりますか」。
当然のように「お墓」と答えたのはイスラエルから来たという陽気な娘さん。ところがクーさんの答えはノー。
「あれは5つ星どころか1000星のホテルです。騒音もなく静かで、しかも永遠に無料で滞在できます」。
ウーン一本取られた。経済成長を遂げつつあるヴェトナムだけど、体制としては”れっきとした”社会共産主義。にもかかわらず、ダナンから続く美しいビーチ沿いには、ハイアットリージェンシーなどのリゾートホテルがずらりと並んでる。経済至上主義のおかげで広がる貧富の差はイデオロギーにかかわらず、世界中で広がりつつあるのだろうか。その辺を突くところを見ると、クーさんはホットでもあるのだ。
IMG_5823続いてはお待たせの「”水牛”体験」が待っていた。田んぼで耕作している茶色い大きな牛(ぼくらを除く外国人は”バッファロー”と呼んでいた)に最初はおずおずと近づいていたものの、フィンランド人とノルウェー人夫婦の小学生くらいの娘さんが試乗すると、負けじとイスラエル人の屈強な青年が飛び乗り、ギャラリーは大受け。そして「子供の頃から乗って遊んでました」と水牛の背中に「立ち乗り」をやってのけたのはクーさん。クールでホットでおまけに軽業師なのだ。
そのあとは、もうひとつのハイライト、”竹でできた大きなお椀のような船でクリークを遊覧”。そして暮れなずむ椰子畑を縫って村道を走り、クーさん一家のお宅訪問&ディナータイム。まずは「ライスミルク」をみんなで作る。水に浸したコメを石臼でゴロゴロと挽くと、まるでミルクのようにやさしい液体になる。それを小さなフライパンで「2分58秒きっかり」焼きあげ、小エビやパクチーなど好きな具材をくるんで食べる。サクサクとした食感と、ハーブの香りが口に広がるサイコーのアントレ(惜しむらくは冷えた白ワインがあれば)。
食卓ではイスラエルからの娘さんがフィンランドからのおばさんと、なにやら話し込んでいる。
IMG_5857「イスラエルでは、子供扶養手当がすごく高くて、何人か子供がいる家庭は、仕事をしないで暮らしている人がいる。まったく」というコメントに、フィンランドのおばさんも北欧の福祉政策のことを熱心に話している。そこにクーさんのコメントがはいる。「ぼくの末の娘は脳に障害があります。証拠はないけど、ベトナム戦争の枯れ葉剤のせいではないかと思っています。それはさておき、今日はツアーに参加していただきありがとうございました。ヴェトナムの田舎の暮らしの一端を感じてもらえましたか?」。クーさんは、クールでホットな軽業師で、ローカル魂のひとである。
(もしホイアンで喧騒を逃れたくなったらおすすめです。Mr.Cu Website: http://www.holanvillageexperience.com)

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