Reason for journey

旅の入口が集まる場所

Words by Kenji Jinnouchi, Photographs by Hiroshi Mizusaki ,Edit&Coding by Masafumi Tada

9月17日。デザインホテル「WITH THE STYLE FUKUOKA」内に「FROM WHERE I STAND」がオープンした。
“ホテルの中にある最高の売店”をコンセプトに、“旅”を快適に過ごせるモノ、そして“旅”を豊かに彩るモノが世界中、そして地元の福岡や九州から集められている。
このユニークな店をカタチにした面々がまた個性派ぞろい。その中心となったのが、写真家の水谷太郎さん(クリエイティブディレクター)、自身のブランド「フィルメランジェ」や「サンカッケー」を持ちバイヤーとしても活躍する尾崎雄飛さん(企画・バイイング)、そして有名ブランドのPRを数多く手掛ける中室太輔さん(プロデュース)の3人のクリエーターだ。
今回のFEATUREでは、この3人のキーマンにインタビュー。唯一無二の個性を放つコンセプトストアが誕生するまでのストーリーを追った。



3人のうち、「FROM WHERE I STAND」の立ち上げ初期から関わっているのが、プロデューサーの中室さん。「WITH THE STYLE FUKUOKA」を運営する「Plan Do See」の代表から、「ホテル内に洋服を中心とした小売店を作りたい」と相談されたのがきっかけだった。


「最初の打ち合わせのときに、『ホテル内にある売店なら、旅をテーマにした方がいいと思います』と提案したんです。それはいいねとGOが出たんですが、さて誰と組もうかと考えたとき、ふと頭に浮かんだのが水谷さんだったんです。僕の周りでよく旅をして、旅先で仕事もして。旅を楽しむことも、効率的に仕事をすることにも長けた人。ちょうどその頃、水谷さんが自分の写真をパズルにした作品を発表していて、この人と組んだら面白い派生の仕方をするんじゃないかという予感があったんですね」

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中室太輔さん



それ以前も仕事で海外へ一緒に旅する機会も多かったという中室さんと水谷さん。その旅路で中室さんの心に引っかかる水谷さんの旅の流儀があったという。

「海外ロケのときの、僕のスーツケースの中身が面白かったみたいなんですよね。僕って世界の都市ごとに、ここに行ったら日常で使う消耗品を一年分くらい大量に仕入れて帰ると決めていて。例えば歯磨き粉はアメリカに行くたびにTom’sという天然ハーブを使ったものをまとめ買いしたり。歯磨き粉とかボディソープとか体にダイレクトに使うもので、それが一緒だといつでも自分のペースに引き込める。本当は旅ならではの出来事にバチンと出くわして面食らうことが旅の醍醐味ではあるけれど、仕事で行っているとそうもいかない。いつも着いた瞬間にベストパフォーマンスを発揮しないといけないからですね」


そんな旅慣れた水谷さんだが、旅する上で道具やファッションの過不足を感じることも多かったという。その経験がショップの“旅する人にとって最高の売店”というコンセプトを明確にしていった。

「実は僕自身、国内外の出張が多いくせに道具のパッキングに関してはめちゃくちゃルーズで、毎回iPhoneのケーブルを買ったりとか(笑)。ちょっとしたバッグが欲しいときも、プライベートならあそこの本屋に行ってショッピングバッグを仕入れようとかできますが、仕事だとなかなか自由に動けない、だからこんなお店があったらいいなと。ロケの撮影が多いのでどんな天候でも対応できるワードローブには気をつけていて、今回のショップでも雨がぱらついてきたときに、さっと羽織れるようなノースフェイスのゴアテックスものなども置いています」

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水谷太郎さん


旅を快適に過ごすモノを置く一方で、「FROM WHERE I STAND」ではメゾンブランドのジャケットやワンピースなども取り揃える。せっかくの旅で来たなら訪れたいその土地のレストランや美術館などの素敵な場所。この一着があることで旅の舞台が広がり豊かな気持ちになることだってある。そのバイイングを担当したのが、ファッションデザイナーでありバイヤーとしても活躍する尾崎雄飛さんだ。中室さんと尾崎さんの関係は長く、2人がファッションの世界に足を踏み入れた、エディフィス時代に遡る。ただ、当時は水と油のような間柄で、今回のようなあうんのパートナーとなるとは夢にも思わなかったという。


「尾崎とは同い年でエディフィス時代の同期なんです。ただ、彼はあとから入ったのに態度がでかくて(笑)。当時は僕がプレスで彼がバイヤーだったんですが、プレスとして『ブランドをこう見せたい』と思うもの以外のモノを仕入れてくるんですよ。今思えば、ブランドのイメージを引き上げるうえでも、横に広げるうえでも必要だったと分かるんですが…。彼はセンスがいいからそれを分かっていたんですね。その後お互い独立し、僕はPR会社を、彼は『フェルメランジェ』というブランドを立ち上げて。ようやく互いの仕事を『すごいな』と認め合うことができたんですよね。それでこの企画が持ち上がったとき、彼ならセンスもすごくいいし、オリジナルアイテムを作るうえでも真摯に取り組んでくれだろうし、彼以外の適任者はいないなと思ったんです」

「今回の話をもらったとき、実はバイヤー業をそろそろ辞めようかと考えていた頃だったんです。僕は『デザイナーをやりつつバイヤーもできますよ』というスタンスなのですが、バイヤー業は業務上たくさんの時間を要するので大変で、そろそろデザイナー一本にしぼろうかとしていた矢先でした。でも中室から話を聞いていくと、水谷さんとやるっていうのがすごく面白そうで。面識はなかったんですが、彼の撮る写真や感性に興味をひかれました」

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尾崎雄飛さん


水谷さんが、尾崎さんのバイイングに関してリクエストしたことは一点。“旅に行きたくなる。そして旅に似合いそうな服を見つけて欲しい”ということ。

「水谷さんからは、“旅を具体的にイメージできるような服”を選んでと頼まれました。例えば、グランドキャニオンに行くからこのマントを羽織ったら写真に写ったときにすごく格好いいんじゃないかとか。そういう旅の動機となるようなわくわくする服も仕入れるようにしていますね。また一方で、ここはホテルで結婚式場もあるので、その下見に来た人が『これ素敵ね。二次会で着ようかしら』とか、参列した人が帰りに寄って次回はこれを着たいなと思ったり、そういう需要にも応えられるようにしています。また僕自身、ホテルは究極のリラックスをさせてくれる場所だと思っています。それで今回、かなりいい生地を使ったオリジナルのパジャマも作りました。普通、ホテルのリネン類はケアがしやすい化繊が入ったものを使うことが多いのですが、『Plan Do See』では、お客様の満足を引き出して商売をしていくという考え方なので、ホテルの部屋のパジャマも店のオリジナルに変わっていく予定です」

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オリジナルのパジャマ



店内に並ぶアイテムはメンズとレディスの割合が半々程度。しかし、昨今の女性が男性の服を取り入れるというテイストも含めると女性モノの比率やや多くなる。

「自分のブランドで『フェルメランジェ』とか『ヤングアンドオルセン』などをやっているんですが、ユニセックスなテイストなのでどちらかいえば女性に支持されています。サイズがシビアでないものに関しては、どんどんメンズのモノも女性に着て欲しい。例えばノースフェイスのSサイズを女性がちょっと大きめに着ると可愛いとか。アウトドアブランドのアイテムって女性モノは欧米人が考える女性像になりがちで、ファニーな感覚の日本人女性には難しいこともあるので柔軟な感覚が大事ですよね」


「FROM WHERE I STAND」では、地元福岡のメンズブランド『FUJITO』が初となるレディスアイテムを販売している。そのアイテムは尾崎さんとディレクターの藤戸剛さんの2人の話し合いの中から生まれたという。

「藤戸さんとかれこれ8年くらいの付き合いです。古着好き同士ということで話も合ったし、フェルメランジェの生地を使ってTシャツを作ってもらったりという関係も続いていて。新しい店でも『FUJITO』を取り扱いたいとは考えていたんですが、それだけだと弱いのでうちだけのアイテムを作ってくれないかとわがままを言ったんですね。僕の中では藤戸さんがやるレディスってどんなだろう?って思っていたからそれをリクエストしました」

それを聞いた藤戸さんはというと。

「最初聞いたときは『レディスは作りきらんばい』とはっきり言いましたよ。でも尾崎さんが『大丈夫ですよ。一緒に話し合いながらやりましょう』と言ってくれたんでね。基本的には既存のアイテムの改造版のようで、シャツの裾を長くして袖を短くしたワンピース風のアイテムだったりとか、以前作っていたライダースのメルトン版だったり。尾崎さんと話し合ったのは、古着を着ている女の子はかわいいとか、メンズアイテムを着こなす女性は格好いいとか、そういうことで。なんとなくメンズとレディスの境目のなさは意識しましたね」

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『FUJITO』のアイテム



店頭を見回して気づくのが“ローカルなモノ”の存在感。それは海外からの宿泊客も多いホテルにとっては、「アンダーカバー」や「TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.」など日本を代表するブランドもまた、日本らしさ伝えるローカルな服たちだ。そしてファッションアイテムに混じり鹿児島の盛永省治さん(Crate)やAKIHIRO WOODWORKSなどの木工作家のオブジェ、有田焼のマルヒロの器など、地元九州のモノもセレクトしている。

「準備期間中に福岡に通っていた際に、水谷さんから『旅をテーマにした店だから、取り扱う作家さん探しも自分達の足を使って旅をして、その中で出会う人たちのものを扱っていくのはどうか』と提案があったんですね。僕らもある程度目星をつけて行くんですがその先にある紹介された誰々とかが意外と面白くて、旅をしないと出会えないものもたくさんありました」

「尾崎って、エディフィスのバイヤー時代から全部足を使って探すということが身に染み付いていました。パリとかに行っても乗り物に乗らないんですよ。めちゃくちゃ歩いてほかのバイヤーが行かないような店にフラフラと入ってパパッと仕入れて。そしてその買物袋を持ってパリ中を練り歩くっていうような。根っからのバイヤーなんだなあと。基本マニアックなんですけどね。彼の中では売れるもの、売れないものの棲み分けがあって、売れないけれどブランドをつくるうえで象徴するモノ、10人中1か2人にしか刺さらないようなモノも置いているんです。その感覚が分かっているから、じゃあ僕がプロモーションで1000人呼んでやろうって」

そうしたショッピング以外の楽しみが、店内奥の壁面に設けられたギャラリースペース。現在、水谷さんとアートディレクターの永戸鉄也さんがコラボした作品の展示を行っている。今後は店舗工事期間中の仮囲いに参加したグラフィティアーティストのKYNE(キネ)や写真家の荒井俊哉氏の作品の展示を予定している。


さまざまな才能が集まり、時間をかけながら作り上げていったショップ。そこにはいろいろなエッセンスが散りばめてある。“いま”を感じさせるネオンサインは内田洋一朗さんのグラフィティをベースにしたもの。店の入口には、世界中の旅行者が自分の足元の写真とともに“FROM WHERE I STAND”というハッシュタグをつけinstagramに投稿することをモチーフにした敷石を配している。また、水谷さんが旅行のときに小物入れとして重宝しているというジップロックをショッピングバッグに用いるなど、博多銘菓の「めんべい」と「チロリアン」にオリジナルの味を別注するなど、その一つ一つが遊び心に溢れている。


最後に3人に、それぞれの思い入れが深いアイテムをきいてみた。

「基本、全部気に入って仕入れているので難しいんですが…。個人的にいえば、オリジナルのイヤホンですかね。僕自身、音楽が好きなわりにそういうことに関わったのが初めてで。これは某有名メーカーのOEMをやっている工場と話し合って作ったもので、アルミの削り出しの躯体とか、音響システム、耳に入れるゴムの構造までこの工場独自の技術なんです。シャンパンゴールドに白という色の組み合わせも含めて、マスマーケティングではできないこだわった逸品に仕上がりましたね」

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オリジナルのイヤホン


「やっぱりチョコミント味の『チロリアン』です。これは一番頑張りました(笑)。僕は小学校5年生までベルギーのアントワープに住んでいたんですが、陸続きだからいろんな所に親に連れていかれるんです。すると不思議とホテルのベッドサイドにはチョコミントが置かれているんです。多分安眠効果があるからですかね。だから旅をテーマにした店のチロリアンならミント味だと提案しました。これは個人的にはすごく納得のいく“作品”ですね」

「ごぼ天うどん味の『めんべい』でしょう! と言いたいところですが、僕は1個のアイテムごとにとは考えてなくて、アンダーカバーの隣にノースフェイスがあって、その隣にヴィンテージのシャネルのバッグがある。そしてその隣に軍モノがあったりと、そういった色んなテイストがミックスされたところがこの店の魅力じゃないですかね。アメカジが好きだからとアメカジ一色になるでもなく、モードばかりできめるでもなく。現実ではそんな格好しないでしょう? 古着のデニムの上にエルメスのセーターを着るとか、そういうのがいいバランスじゃないかと思うんです。今回、企画段階に立てたコンセプトが少しも薄まることなくオープンまでたどり着いたのは、本当に幸運で奇跡ともいえると思っています。だからこれからも自由な感性のセレクトショップとして根付いていければいいなと思います」



FROM WHERE I STAND
福岡市博多区博多駅南1−9−18
WITH THE STYLE FUKUOKA
092-433-1139
8:00〜24:00
不定休
fwis.jp



水谷太郎 写真家
ファッション雑誌やブランドの広告撮影などを中心に活動。
2013 年3 月、写真展「流行写真」を企画・開催。
同年11 月には「Gallery 916」にて初の個展「New Journal」を行う。「FROM WHERE I STAND」ではクリエイティブディレクションを担当



尾崎雄飛 バイヤー・デザイナー
ベイクルーズにてバイヤーを経て、ファッションブランド「FilMelange」デザイナー兼ディレクターに就任。
2012 年、自身のブランド「SUN/kakke」を設立、現在に至る。「FROM WHERE I STAND」ではバイイングとオリジナルウエアのデザインを手掛ける



中室太輔 プランナー・プレス
ベイクルーズにて販売職・プレスを経て、2008 年に独立。ファッション&スポーツブランドのPR エージェンシー「muroffice」設立、
ディレクターを務める。「FROM WHERE I STAND」ではプロデュース、プロモーションを担当




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