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経験を額装がつなげる

Photographs by Ittoku Kawasaki,Words,Edit by Masafumi Tada

福岡県立美術館の目の前にあるオーダー額装専門店『SPOT FRAME WORKS』。アーティストや写真家、アートコレクター、絵画教室に通う方など様々な人がここを訪れる。身近なようで、詳しくは知らなかった額装のことと、『SPOT FRAME WORKS』代表の矢部 博史さんのこと。今回のCENTRAL_FEATUREは、この二つのことを中心に、今後の展開などについても話を聞き、その魅力を探る。



CENTRAL_(以下C):最初に「額装」について教えてください

矢部 博史(以下Y):自分のイメージで言うと、額装は店の名前にもしているんですが額の中に入る作品にスポット(照明)を当ててより良く見せることと、作品を保護することだと思います。いわゆるポスターフレームのように作品がぴったりと入る仕様のものは、僕ら額装屋からすると額装とは違うものだと思っています。

額縁の歴史的なものは、古いヨーロッパの建物などの天井や壁に絵が描かれているのを観たことがあるかと思いますが、その絵のまわりにモールディングという縁をとる飾りがあって、それが額縁の始まりのようなので、元々は建築からの流れでしょうね。作品を保護するということでマットが使われるようになってからは、今の額装の形になってきています。

マットの役割は余白の取り方などで作品を引き立たせる役目もあるのですが、湿気を吸ってくれるという機能を持っているので、作品を湿気から守ってくれ、ガラスやアクリル板と作品の表面が当たらないようにしているんです。稀に、遺影の額を替えたいという依頼があるのですが、ガラス面に写真が直接当たっていて、湿気で写真がガラスに貼り付いてしまって取れないんですよね。だから、平面作品を額装する時は特にマットは重要です。

20200416_0040 SPOT FRAME WORKS 矢部 博史さん


C:オーダーや既製品など額装には、どんな種類があるんですか?

Y:ここの壁にかけてあるようなフレームは、メーカーさんが4mほどの竿で作っているんですよね。1000種類くらいあって、作品に合わせたフレームを選び、カットして組んで、中を仕上げていくというセミオーダー的なものが一つ。

額縁屋さんでは、これをオーダーフレームと言っているんですけど、自分のところでは、このフレームよりも細く、厚くという依頼があるので、図面を起して、加工してフレームから作るフルオーダーをやっています。

あと一つは、ある程度サイズの決まった既製品の額があって、作品の大きさに合わせて額を選びマットを調整するというもので、一般的に知られている額だと思います。

オーダーがあまり知られていなかったのは、日本の場合は美術業界まわりを中心に発展してきた分野で、既製品のメリットを生かして展覧会ごとに作品を入れ替えて使いまわすといった背景があったり、海外ほど自宅に額装して飾るというのも一般的ではなかったりしたかもですね。逆に海外は、既製品の額がなくて、セミオーダー、フルオーダーが主流で、“この作品には、この額でしょ”みたいな感じで、作品の出し入れをできなくもします。

20200416_0048 店内の壁にかけられたフレームのサンプル


C:額装のことが分かってきたので次は矢部さんについて。いつから額装を仕事にしようと思ったのですか?

Y:高校時代は美術クラスで、大学も美術系へと進み絵を描いていたんですけど、途中から木で何かを作るといった家具というか、製品を作ることに興味を持つようになり在学中も作っていました。卒業後はアンティーク家具店で修理の仕事に就き、インテリア関係の方との仕事もしていました。その頃から、絵画運送業を行う義理の父より知り合いの画材屋さんの跡取りがいないので、画材屋で働かないかと誘ってもらっていたのですが、当時は家具を作る仕事ができたらと思っていまして断っていたんです。

きっかけは忘れたのですが、何かの流れから画材屋で働いてみようかと思い、入らせてもらって仕事をしだすと、画材屋の中に額装、額縁のコーナーがあって、ここで初めて額に触れることになりました。

画材よりも、額装の方が面白かったので担当にさせてもらって働いていたのですが、画材屋さんではオーダーフレームを受けても外注することが多かったんですね。それが自分の中ではひっかかっていたので、フレームを組む、このモールディングの機械を買って、仕事が終わって家のガレージで練習していました。そしたら、知人からオーダーが入るようになってきたので、次第に画材屋よりも額装屋をオーダーでやっていきたいと思い、独立したんです。

今まで好きなものだったり、興味があったりしたものに無理やりじゃなくても繋がりがあると嬉しいじゃないですか。額装という仕事に触れた時、遠回りしたけど、なんか絵を描いていた時の美術業界にも戻ってきたような感覚と、フレームを加工することが家具を作るではないですけど、もの作りがしたかったこととも自然な形で繋がって、自分の中でしっくりきたんですよね。

20200416_0026 モールディングの機械



C:どのようにしてSPOT FRAME WORKSはスタートしたのですか?

Y: “額装屋は美術館の目の前でしょ”と勝手に思っていたので(笑)、この場所(福岡県立美術館の前)に決めました。始めた頃は、美術館の来場者が知ってくれて、数か月後に来てくれたりとか、知人が来てくれたりするくらいだったので、仕事はなかったですね…(笑)。

“オーダーフレームをやっています”と言っても、物を売る仕事とは少し違うので、お客さんにとってはどんなものを作るのか、どれほどの技術を持っているかも分からなかったかと思います。そういうのもあって、自分で額装したものを店内にディスプレイしていたのですが、最初はこれ自体を売ってほしいというお客さんもいましたね。

あと、裏話的なところでは先にも話したようにこの業界が古くからある関係で、独立する前にフレームのメーカーさんに取引の依頼をしてOKをもらっていたのですが、老舗店からの反発が出ましたということでオープン直前になって「全部NGです」と言われたんです。結果的に、それで完全にオーダーフレームでいこうと決めました。


20200416_0004 店内ディスプレイの一部



C:オープンした頃だったかな、好きなジャンルのものが額装されディスプレイされていたので店に入ってみたのですが、忙しかったのか、そっけない対応だったんですよね(笑)

Y:失礼しました(笑)、第一印象って大事ですね。最初の3年くらいは、そんな感じでやっていたんですけど、今もよく仕事をさせてもらっている方とか、多くの方に知ってもらうきっかけとなったのは、2016年の合同展示会の『thought』に出展してからですね。

画材屋の頃に見てきた額装は、美術業界や絵画教室に通っている方に対しての仕事が多く偏りがあるなぁと思っていまして、自分は偏りがなく額装をしたかったので、『thought』に出ることで額装自体を知ってもらえるんじゃないかと。あの時は、好きなものを額装して展示しただけなんですけど、来場者だけではなく、アパレルや雑貨などを扱う出展者の方にも見てもらうことができよかったです。

IMG_7138-710x532 『thought』出展時の模様 (写真:CENTRAL_)



C:その後は、どのような方が依頼するようになったのですか?

Y:現在は、プロのアーティストや作家さん、アートをコレクションされている方、以前より依頼を頂いている絵画教室に通われている年配の方など様々です。

いわゆる美術業界ではないジャンルの仕事も増えましたね。例えば、アパレルをされている方の展示会において、作品を飾るということもありますし、飲食店の壁面のディスプレイをさせてもらいましたし、先日は鈴懸本社に飾る作品の額装と設置など幅は広いですね。

『thought』に出たことで、藤戸さんと知り合って、2017年にFUJITOの15周年のイベントをされる際、写真家の水谷太郎さんが撮り下ろした作品を展示するという企画で、その時に額装と設置をさせてもらったのがきっかけで、その後も水谷さんから依頼を頂いています。

FUJITO 15thイベントの模様 (写真: CENTRAL_)

鈴懸本社食堂の作品額装と設置 (写真:CENTRAL_)


C:アーティストや作家と、コレクターの方の違いなどはありますか?

Y:自分は、共通して作品をより良く見えるように、できるだけ削ぎ落としていきたいんですよね。例えば、美術館に飾ってあるような額にいれるとゴージャスには見えますが、作品を引き立たせているのかというと、そうでもないこともあって。そこに関して、写真家の水谷太郎さんとの仕事の時は、その削ぎ落としをすればするほど、分かってくれるといいますか。

俳優の村上淳さんは、ご自身で写真も撮られていますし、これまでも色々と額装もされてきているでしょうから、自分が3年くらいかけて見つけた余白の取り方を、初めて会った時に感覚でサラッと言い当てられたんですけど、そういうのがバチッと合ったので、依頼をしてくださるのかと思います。アーティストとの仕事は、額装をすること自体の完成を目指しているようにも感じます。

コレクターさんとの仕事の場合は、展示会や展覧会とは違って、目的が部屋に作品を飾るということが多いので自宅の写真を見せてもらい、自宅の雰囲気と作品とのバランスが取りながら、額装屋としてやり過ぎないように気をつけていますね。

これまで、様々な額装をされてきたプロのアーティストとの仕事は、そこに応えられるものを作っていきますが、勉強にもなりますし、次のステップに行ける感じもしています。プラス、絵画教室に通う方との額装も変わらず、大事に続けていきたいです。

20200416_0044


C:額装する上で影響されたり参考にしたりしているものは?

Y:これを目指していのではないですが、雑誌で海外のアーティストや作家、スケーターらがアトリエや自宅でインタビューを受けている時の写真に写り込んでいるフレームがあるんですけど、それがカッコいいなとは思います。



C:さまざまな作品を額装する上で、どのように向き合っていますか?

Y:一つは、その作品を理解するということを行います。アーティストから持ち込まれた時は聞くこともできますが、亡くなっているアーティストの作品を依頼された時は話を聞くことはできないので、その作品について知っていくということから始めます。

もう一つは、作品自体の広がりやサイズ、紙質などから余白を調整します。どの方向に作品が広がっていくかということを捉え、紙質によっては浮かせるのか、マットを使用するのかを考えますね。

この作品(写真・下)の場合は、どちらに広がっていくという点よりも、作品が縦長というところから、マットの余白を均等にとると目の錯覚で上下が狭く見えてしまうので、上下を5mmくらい多めにとっています。作品の広がりという点で、左に向いているので、左の余白をとるということもできますが、変にやりすぎるのもよくないので、飾る場所も考え左右均等にしています。
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こちら(写真・下)は、作品を浮かせることで奥行きを出し、背景を白にすることで月とサーフボードの白を強調させています。この二つの場合は同じ方からの依頼ということもありましたが、マットがいい時もあれば、浮かせた方がいい時もあるので、作品に合わせて対応しています。
20200416_0038 20200416_0031


C:今後の展開について聞かせてください。

Y:オープンする時、唯一「フレームを出せるよ」と言ってくれたところがあって、そこには今もお世話になっています。なので、フルオーダーが予算的に難しいという時に、最近は既製でいいフレームもありますし、ずっとオーダーでやってきた技術やノウハウを生かして既製フレームの上手な使い方を提案できればと思います。

始めた頃から、これからも変わらず思っていることは、額装屋としてのきちんとした技術を持って取り組んでいくということです。ただ、これまでは他の事は考えずやってきたのですが、昨年、もの作りが好きで、子供の頃から色んなものを作ってくれた父が他界したことや、新型コロナウイルスのことなど、こういう状況になったからかもしれませんが、自分自身が楽しいと思えることも違う形できたらと思っています。例えば映像や写真を撮ってみたり、Tシャツを作ってみたりと。それをきっかけに額装のことも知ってもらえたら嬉しいですし。

今から価値観も変わってくるかもしれないので、楽しまないといけないなと思うようになりマスクが手に入らない状況で、お気に入りだったけど古くなったプリントTシャツを使ってマスクを作ったのですが楽しいんですよね。いかにプリント部分をマスクにするか、額装のように余白の取り方を考えているので、楽しさの中から色々つながってくるというか。

20200416_0022 趣味的にテーマを決め様々な形にカットしたマット。楽しみながらカット技術も高まるという


20200416_0035 Tシャツをカットして作ったマスク



C:最後に額装という仕事を通じて励みになることがあればお願いします。

Y:仕上がりをお見せした瞬間に喜んでくださるのも嬉しいです。でも、自分の中では、最初の第一印象も大事ですが、5年、10年と飾っていて見飽きないものが正解だと思うので、数年経って店に来て「あの額装は良かった」と言ってもらえた時は嬉しかったですね。

先日、イギリス人のコレクターさんへ納品した時、新型コロナウイルスで世界がこういう状況になってしまってというやるせいない話から、その方が「今は家でこれを眺めるのが僕のちょっとした幸せだよ」と言ってくれました。いわゆる生活必需品ではないんですけど、そう思ってくれる人がいるんだなと思って、この状況でモヤモヤとしている中、すごくありがたかったです。




高校・大学と美術系で絵を描き、その後は木で何かを作りたいという想いからアンティーク家具のリペアやインテリア業に携わる。そして、これまでの背景をつないでくれるような額装と出会う。だから、作家の気持ちに立って作品を理解したり、飾る人のイメージを聞きいれたりすることが自然にでき、SPOT FRAME WORKSだけの提案ができるのではないかと感じた。また、額の中に入れる“作品”をより良く見せるようにしているための額装だが、ここでは“一つの作品”となっているような気もしたので、そのことを矢部さんに伝えると「自分は作家だと思っていませんが、お客さんに『ここで額装して作品が完成します』と言って頂けることがあるのですが、純粋に嬉しいですね」と返ってきた。今後の“楽しさ”を取り入れた展開にも期待したい。





SPOT FRAME WORKS
住所:福岡市中央区天神5-1-15 1F
TEL:092-725-7790
※アポイント制(電話にて要予約)
@ spotframeworks

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