DAYS_

Mitsutoshi&Tomoko Takesue

「その辻を曲がれ」3

そうこうするうちに、以前から通達されていた区画整理なるものがはじまりました。なんと、我が家のほぼ目の前に西鉄大橋駅が移転オープンするのです。もともとは田んぼの中に建てた平屋に家族で約15年ほど住んでいたのが、突然駅前になるというわけで、ご近所さんたちにならって我が家もビルに建て替えることになったのです。実は、東京ぐらしが行き詰まってしまい”パンの耳をかじる”生活に陥った際、父から「家をビルにすることになったのだが、お前やってみる気はあるか」という電話があり、放蕩息子は、渡りに船とばかり「はい、やります」と答え、帰還していた次第なのであります。
もともとインテリアには興味がありました。さしあたり、BRUTUSに掲載されたNYの”ロフトスタイル”特集から気に入った写真を切り抜いてスクラップブックにしたり、”フレンチスタイル”や”サンタフェスタイル”という、当時話題になっていた洋書を手に入れて、むさぼるように読みふけりました。そして、ロフトのように広く天井が高い空間と、フランスっぽいアンティーク家具、そしてサンタフェみたいな土着感という、いわば今のorganにも通じるイメージにたどり着いたのかもしれません。しかし、肝心の建築そのものについては、無知です。ただひとつ”BAUHAUS”には強く惹かれるものがあったので、ビルの概観はシンプルなコンクリートで行こうと決めていました。
そんな風にして、小さいながらも自分でビルをデザインすることになったのですが、ひとつだけ、何が何でも実行したいことがありました。それは「土足で暮らす」ということです。ひょっとすると、映画『勝手にしやがれ』でジャン・ポール・ベルモンド演じるアナーキーな主人公が、靴を履き、たばこをくわえたままベッドに横たわってジーン・セバーグを口説くシーンに憧れていたせいかもしれませんが、実は、いかに西洋っぽいインテリアを目指しても、結局「のようなもの」になってしまうことがイヤだったのだと思います。下駄箱やスリッパもいらないし、外出からもどってもそのまま部屋に入ることができる、いわばホテルや、病院のような様式をそなえた住まいこそ、ぼくには理想的だったのです。だって、「アッという間の人生」を旅するにはリアルにうってつけなのですもの。(武末充敏)IMG_0607

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