DAYS_

Mitsutoshi&Tomoko Takesue

急ぎすぎたぼくは、もう止まらないレイルの上…。

「せっかく神戸に来たのなら、芦屋に残るフランク・ロイド・ライトの建築を見たらどうですか」と耳打ちしてくれたのはdieciの田丸さん。「近代建築の巨匠」と呼ばれるライトに、ぼくはあまり認識がない。有名な『落水荘』のDVDを随分前に観たことがあるけど「自然を取り込んだ、えらく凝った別荘だなー」という感想。でもここは信頼する友人のアドバイスに従って、芦屋川の坂道をどっこいしょと登ってみることにした。
IMG_8179外観は、まさに古き良き時代の「洋館」という感じ。同じライトが手がけた帝国ホテルでも使われた、宇都宮一帯で取れる柔らかくて軽く、うっすら黄色みを帯びた石材「大谷石」が渋く格好いい。その石がさまざまな形に加工され、内部にもふんだんに使われている。だから、装飾過多の感は否めない。ただ、この大谷石は日本民藝館にも使われているように、ある種のクラフト感があって、華美な感じはなく、落ち着きのある風情だ。もっとも、3階に突如出現する三部屋続きの畳の日本間にはびっくりしたなあもう(もともとライトの設計にはなかったらしいのだが、施主のたっての希望で、ライトがアメリカに帰国した後、お弟子さんの日本人建築家が設計を変更して施工したものらしい)。「和洋折衷」をここまで大胆不敵にやられるとは、ライトさんも想定外だったにちがいない。
IMG_8183この邸宅が建てられたのは1924年。「大正デモクラシー」と呼ばれる、自由で爛熟した文化が花開いた時代にあたる。反面、急速な都市化と工業化に対し、ロシア革命の影響もあって「社会主義」へ傾倒する知識人が現れ、大杉栄と伊藤野枝が暗殺されたりと、権力による不穏な動きも激しかった。大衆レベルでの「モダニズムの模索」の時代といえなくもないが、ポイントはやはり新興のブルジョワジーが牽引する「西洋化ブーム」真っ最中だったということだろう。

IMG_8194この、灘の老舗酒造家8代目の山邑さんが建てた別宅には、そんな進取の気性に富んだ「心意気」みたいなものが充満している。でも日本の住環境に欧米のスタイルを、取り急ぎ強引に取り入れようとしたあまり、巨匠の意に反して、こんな立派な「日本間」を作らざるをえなかった気持ちが痛いほど伝わってくる。小坂忠が歌った『機関車』じゃないけれど、「急ぎすぎたぼくは、もう止まらないレイルの上…」ってところかもしれない。どうせ急ぐのだったら、日本間はやめていっそのことラディカルに「靴のままスタイル」をためして欲しかった、と個人的に思ってみたり…。
それはともかく、結論としては、もちろんとても興味深い建物でした。みなさんも、もし神戸に行く機会があったら、一度訪れてみてはいかがですか。

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