MAKE PLACE

既存の“当たり前”を変える場所

Words by Yuichiro Yamada, Photographs by Takato Shinohara,Edit by Masafumi Tada

2014年3月29日、波佐見の町が熱気に包まれた。ある地元住民は「陶器祭りシーズンに次ぐ人出だ」と驚き、またある人は「何があっとるんやろう」と首を傾げた。

事の発端は2日前、3月27日にさかのぼる。この日、九州で初となる大規模な合同展示会「thought」がスタートした。これまで数十社が集まるような大規模な展示会は関東、関西で開催されることがほとんどで、九州のブランドやメーカーにとっては金銭面での負担が大きくなり、どうしても参加のハードルが高くなってしまう。―九州で合同展示会を― その旗印の元に集まったのが藤戸さん、林さん、植村さん、南さんの4人。3月27日、「thought」は初日を迎えた。翌28日までが合同展示会、29日には一般客も参加できる物販会「Market」を開く。3日間の賑わいぶりは冒頭の通り。街には九州一円から客が訪れ、その注目度の高さを証明した。

今回のFEATUREは2部構成。実行委員の中で先輩のポジションにあたる藤戸さんと林さん、その背中を見てきた植村さんと南さんの2グループに分けてトークセッションを実施した。thoughtが生まれた経緯を振り返りつつ、第2回目を9月18〜20日に控えたthoughtの舞台裏に迫り、それぞれの思い、内に秘めた情熱をレポートする。

thought、再び。


Directorsでのトークセッションの数時間前、藤戸さんと林さんは波佐見にいた。もちろん、第2回目を控えたthoughtの打ち合わせのためだ。同じ車に乗り合わせて帰ってきたという2人。自然と話題はthoughtのことになったという。エンジン全開の2人にthoughtが始まったきっかけについて語ってもらった。

藤戸 thoughtのことを話す前に、僕と林さんが出会った経緯を説明しないといけませんね。

 2012年当時、東京にある「アーツアンドクラフツ」という鞄メーカーのお仕事を手伝わせてもらっていて、波佐見にある「西海陶器」敷地内にある「HANAわくすい」でイベントを開催させてもらうことになったんです。その時、長崎の佐世保出身ということで藤戸さんの存在を知り、声を掛けさせてもらいました。とてもウマが合い、合同企画展『フジトフジ』も無事に成功を収めることができたんです。

藤戸 その1年前、僕と植村が飲んでいる時に合同展示会をしたいと話していて。林さんと出会った時「今が合同展示会を始めるタイミングだ」と思ったんです。それからが本当のスタートですね。ただ、僕はあくまで旗ふり役。実際に動くのは若手が良いと思い、植村にドーンと任せることにしました(笑)。

 前回は最終的に36のブランド&ショップが参加してくれました。実は基本的に公募・募集をしてなく、直接、声掛けして参加を募ったんですよ。目標出店数も設定してなく、5軒でもやろうという考えでしたね。

藤戸 そうですね。そういう勢いがあったから、やれたんだと思う。

 自分たちが楽しむことを前提にしていたのが良かった。そもそも誘い方も消極的でしたからね。「お客さんが来ないかもしれない」「自分たちが楽しむつもりで来るくらいの気持ちで来てほしい」「しかも福岡から遠く離れた長崎県の波佐見だよ」って(笑)。そう言った上で、「さあ、どうする」と。

藤戸 thoughtのイメージは、個別にトライができる場所なんです。僕らはハコを用意するだけ。個々が勝ち上がっていき、きちんと結果を出すための場所を作りたかった。例えば、「人気のあるブランドのお客さんのおこぼれがもらえるかもしれない」といったおんぶに抱っこの気持ちは持たず、結果を出すために個々が努力をしてほしいという思いを最初にしっかり伝えました。仲良し小好しで終わってはいけない。

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thoughtの会場となったのは、「西海陶器」の敷地にある「南創庫」と「モンネポルト」。利便性だけを考えると、決して恵まれた場所だとは言えない。しかし、藤戸さんは「パワーのある場所」だと表現し、この場所以外はありえなかったと言い切る。

藤戸 東京にはない形で実施したいということを当初から考えていました。だからこそ、「どこで開催するか」はとても重要な問題でした。その場所自体に行きたくなるような魅力を備えていることが絶対条件。僕はその魅力を“パワー”と捉えています。

 わざわざ行く場所だから、泊まる人も多かった。それが展示をしっかり見ることにつながっていましたね。1つの展示会に2日もかけるなんて、普通はありえませんよ。東京や大阪だと、下手したら名刺だけ配って、挨拶して終わり。展示がほとんど見られなかったという嘘のような話もあるんですから。

藤戸 それが結果として東京、大阪との大きな差別化にもなったし、関東、関西からのお客さんを呼べたことにつながっていると思いますね。

 3日目にmarketを実施し、エンドユーザーが作り手から直接買える機会を作ったのも良かった。普段よりも断然広い客層から直接、感想を聞くことができる機会ってそうそうありませんからね。エンドユーザーにとっても“スーパーセレクトショップ”的な位置づけで、「今、見ておきたいもの」「旬なもの」が集まっている場所として体感してもらえたと思います。盛り上がっている感じがしっかり伝わってきました。

藤戸 thoughtって何?と思っていた人も体感を通してどんなものか分かってもらえたと思いますね。同時に、僕ら自身も3日間を通して、thoughtが何なのかを実感していった気がする。

2人が発する一つひとつの言葉を通して、手応えは十分に掴んだように感じた。だが、「100点満点を付けるなら、前回は何点だったか?」という問いに、思いがけない答えが返ってくる。

藤戸 来てくれた人の反応、反響が第2回目開催の後押しをしてくれたのは間違いないですね。ただ、展示会を開催する以上、最終的な目的はあくまで売上です。お客さんが集まり、反響があったという点では良かったと思いますが、それが結果になり、受注につながったかという点で考えると前回はゼロだったと思っています。

 仲良し小好しではダメだというのはそういうことなんですよね。ただ、前回については「始めること」に意味があったように思うんです。そこは100点だと実感があります。こうやって2回目につながっていますしね。

藤戸 うん、ステージを作ったという意味では100点。形にできたことが良かった。後は各々が魅力と伝え、製品をブラッシュアップし、創作活動に打ち込むだけですからね。


藤戸さん、林さんとのトークセッションを終え、晩夏の暑い空気を切って今泉の「PARQ」へ向かう。待っていたのは、植村さんと南さん。藤戸さん、林さんと年が3、4歳離れた2人にとって、thoughtはどんな結果をもたらしたのか。

植村 今、こうして振り返ってみても、やっぱりthoughtは立ち上げて良かったと思っています。藤戸さんに「任せた」と言われた時も、あまり深く考えずに「よし、やってみよう」と。そこに戸惑いや迷いはなかったですね。そもそも「展示会をしたい」という思いがあったので、絶好のチャンスだと感じました。

 thoughtのメンバー4人はそれぞれタイプが異なっていて。それぞれが個性を発揮しつつ、役割分担できたのが良かったですね。

植村 例えば、僕は行動力には自信があるし、どんなシーンでも緊張しません。ガツガツ突き進んでいけるタイプ。僕がどんどん動くことで、周りにどんな影響が起こるのか楽しみながらthoughtに関わってきました。個性的な4人が集まった時に起こる化学反応が見たかったんです。

 僕はホームページの制作、DMの叩き台の作成を担当しました。thoughtは手探りでスタートしたイベントです。予算が潤沢にあるというわけではありませんでしたから、できることは自分たちでしようという話に自然となったんです。たまたまホームページに関してはある程度、自分で作ることができたので、流れで僕が作ることになりました。あくまで主役は参加する各ブランドであり、作り手です。そんな参加者のみなさんにスポットが当たるように心掛けました。

植村 僕も南も藤戸さんと林さんから完全に任せてもらっていたので自由に動かせてもらえたと思います。完成したものについてもチェックしてもらう程度でしたね。

 信頼関係があったからこそ、スムーズに進められたんだと思う。

植村 自ら展示会を開くのも初めて。僕自身が手掛けるブランド「thinq」、そして南と2人で作り上げたブランド「fit」のお披露目でもある。だから、thoughtの実行委員として九州初の合同展示会を成功させたいという思いと同じくらい、一出展者としての思い、意気込みも高かったですね。


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thoughtは植村さん、南さんにとってベストなタイミングでの開催となった。実行委員としてthoughtに関わったが、その点について話を振ってみた。

植村 実は、運営についてはそれほど大変ではなかったんですよ。連絡を回し、出展者の方々のためにブースのスペースを区分けして、前日までに準備を調える。僕たちは場を用意するだけ。出展者が作るブースについては何も口出ししません。

 各クリエーターの力を信じているということですかね。みなさんの力を借りて作り上げた感覚です。

植村 展示会に合わせて各々が集まり、それぞれ努力して、終わった後に解散する。実に単純明快ですね。会場に余計な装飾、作り込みもしない。そういう意味で、開催する場所自体の魅力が重要だったと言えます。

 結局、thoughtの目的は受注につながる場にすること。最終的にはそれぞれの作品とバイヤーさんとの話になります。場所は用意できても、売る努力までは手伝えませんからね。

植村 だからthoughtを運営するにあたっての使命感はありません。もちろんチャンスという捉え方をしていますし、これからも続けていきたいですが、「誰かのために続けていかなければ・・・」という感じではないんですよ。


物事の捉え方がフラットで、気負いがない2人の話を聞いているうちに「thoughtとは何か」が明確に浮き上がってくる。どうしても九州初の大規模な合同展示会という言葉に釣られて本質を見失いそうになるが、thoughtとはハコ=場所であり、それ以上でもそれ以下でもないということだ。大切なのは、ハコの中身。魅力的な作り手とプロダクト、そしてトライする気持ちと情熱だということが分かった。では、一出展者としてはどんな感想を持ったのだろう。

 手応えとしては「ああ、こんなものかな」と。ちょっとネガティブに聞こえるかもしれませんが、正直な気持ちとしてはそういう感じでした。1回目でしたからね。信じられないくらいの人出になるという大きな期待もしていなかったし、そういった意味で手応えはないかな。

植村 僕も少なからず物足りなさがありました。「もっと来てもらえれば、もっと楽しくなるのに」という感想ですね。もちろん、収穫もありますよ。お客さんとじっくり話せたのは良かった。僕だけでなく、他の出展者さんやバイヤーさんからも「他の合同展よりじっくり話ができた」という感想をいただきました。モノの魅力をしっかり伝えられる機会になったのが嬉しいことです。

 それでいくと、会場の造りが良かったですね。一カ所集中でなく、回遊性があったので、一度僕たちのブースを見て、2階も見て回って、ちょっと休憩してからもう1回戻ってきてくださるという方もいらっしゃいました。場所の力を借りられましたね。

植村 小売店をしている立場で言うと、一度見てから店を出て、もう一回戻ってきてくださると話が弾むんですよ。そういう体験はリアルな手応えとしてありますね。

thought -2nd Exhibition-までいよいよ2週間を切った。今回は第1回目よりも出店が増え、約50のブランドやショップが参加。その面々もアパレルからアクセサリー、生活雑貨まで多岐に渡る。前回同様、初日、2日目が「EXHIBITION」でバイヤー及び関係者を対象とした展示会で、最終日は「MARKET」として誰でも参加できる物販を実施する。「本当の1回目は今回。前回はゼロ回目だと思っているんです」。植村さんがインタビュー中にちらりと口にしたその言葉が今も頭に残り、気持ちを昂らせてくれる。



thought EXHIBITION AND MARKET 2014 2nd
日時
EXHIBITION
9.18 (thu) 10:00〜18:00
9.19 (fri) 10:00〜18:00
バイヤー及び関係者を対象とした展示会を行います。
終日、一般の方のご来場はご遠慮しております。

MARKET
9.20 (sat) 10:00~17:00
出展メーカーによる物販を行います。
どなたでもご来場いただけます。

住所
長崎県東彼杵郡波佐見町井石郷2187-4
会場
833スタヂオ
問い合わせ
info@thght.jp(thought実行委員会)
http://www.thght.jp




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藤戸 剛 Go Fujito
2002年にメンズブランド「FUJITO」をスタート。福岡市・長浜にある直営店「Directors」は2008年に開店。フィレンツェ流仕立てのサルトリア「Liverano & Liverano」のデニムジーンズも手掛ける。



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林 博之 Hiroyuki Hayashi
SUN WORKS代表。2012年に千葉から福岡県・糸島市へ移住し独立。カバンからアパレル、木工、ジュエリーまで幅広いジャンルの九州地区の営業代行を請け負う傍ら、間伐材を使った商品の企画・開発も行なう。



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植村 浩二 Kouji Uemura
福岡市中央区今泉でセレクトショップ「PARQ」を営む。自身でプロデュースする「thinq/AZUMA」の企画・デザインを手掛けるほか、南さんと共同でカットソーを主としたプロダクト「fit」を展開。



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南 久仁 Hisahito Minami
花が本来備えた造形や色、そして変化と生命力を額の中に閉じ込める「FLOWER ADJUSTMENT」の作家。植村さんと共同で展開する「fit」の企画・デザイナーとしても活動中。

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