HERE IS THE TRUTH

深く沈んで浮かんでくるもの。

Words by Kenji Jinnouchi, Photographs by Koji Maeda,Edit by Masafumi Tada

この夏、新たにCENTRAL_のDAYSメンバーに加わった大石卓さんと宮脇紫穂さん。二人は、今泉に移転したばかりの「ticrohair(チクロヘアー)」の代表、かたや、ヨガ講師でありながらDJや音源のリリースも行うサウンドクリエーター。そんな異分野ながらも、同じ“美”を創出する仕事に携わっている。
今回は大石さんをはじめ、多田編集長、CENTRAL_スタッフとともに紫穂さんが主宰するヨガスタジオ「yogalimt」を訪ね、全員でヨガを体験。そして大石さん、紫穂さんに互いの仕事観について語ってもらった。

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C もともとお二人は友達だったんですよね。

 そう。20代前半の頃からクラブでよく会う人の一人として知っていたけど、ちゃんと話すようになったのは紫穂ちゃんにモデルをお願いしてからかな。

 その時は大石くんも「バルベリア」っていう前の店で働いていたよね。大石くんの印象ってその頃から全然変わってなくて、“すーっとしてるけど不思議と存在感のあるお兄さん”て感じかな。髪型もいまとおんなじだし。

 紫穂ちゃんとは共通の友達も多くて、音楽の趣味も合ったから、イベントごとに会うって感じかな。

C 紫穂さんは10代の頃からDJをされていたんですよね?

 うん。もともと私は福岡出身だけど高校のとき山口の岩国の学校にいってて、よく広島まで踊りにいっていたんです。ちょうどサバービアってレーベルの曲が全盛期の時代で。そしたら、朝方にやけにいい選曲をするDJがいたんです。とっても好きな曲がかかったとき、この曲何ですかって聞いたらジャケットを見せてくれたんだけど、それを覚えて買ってやろうって。それがボサノヴァのアストラッド・ジルベルトのレコードだったんですけど、当時は全然見つからなくて…。で、大学進学のときに福岡に戻って来て、移転前の大名のチクロに「チクロマーケット」ってレコード屋が併設されてて、そこで見つけたんじゃないかな。そこはパンクの人も来るし、モッズやジャズの人も集まる場所で。バイヤーの人のセンスが好きで通うようになったんです。

 森さんだよね。いまはイベント会社のBEA で働いてて、海の中道の「CIRCLE」とかの仕掛人でもあって、福岡の音楽シーンでは外せないキーパーソン。チクロって最初はその森さんと、美容室の先代オーナーの城戸さんの二人が作った店で、その名付け親も森さんだからね。“1960年代に使われていた発がん性のある甘味料「チクロ」みたいに、「甘いけど毒がある」っていう相反するものが共存してデザインになる”、っていうコンセプトを生み出したのもあの人だし。「かわいいけど毒っ気があるね」とか、「コンサバだけど意外と個性があるよね」みたいな意外性があって表面的ではないものを提案していこうと。おれが独立して、店を買い取ることになってもそのコンセプトは変わらないからね。

C 紫穂さんが音楽に加えてヨガに傾倒していったのはどういう流れから?

 そのこと話すと小説書けますよ(笑)。大学のときは好きなミュージシャンのジャケットとか手掛けられたらいいなと思って、写真とかデザインを勉強してたんです。でもやっぱり音楽が好きでロンドンのクラブカルチャーにも定期的に触れに行ったり、大学卒業してからもレコード屋のバイヤーをやったりして。前の旦那も音楽やっている人で、一時期東京に住んでたんですけど、向こうで音楽をストイックにやっている人って、例えばレゲエならマクロビオティックを2000年頃の結構早い段階からやってたり。それでマクロビオティックのような食生活やヨガにも興味が湧いてきて独学でやってたけど、本だけじゃ分からないから先生に習おうと。

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C インドとハワイ、それぞれに先生がいらっしゃいますよね?

 最初に行ったのは2009年で、南インドのマイソールて街にあるアシュタンガヨガの本家。小さな子どもが二人いたんですけど、誰もみてくれる人がいなくて。だったら一緒に連れていけばいいじゃん!て思って、一緒に行ったんです。アシュタンガヨガていろんな分家があっていろんな解釈で教えてるんだけど、きっと本家にこそ真実があると思って。そのあとにハワイのキャシー・ルイーズって先生の元で定期的に勉強するようになったんです。ヨガって朝4時から6時くらいまでの早朝の時間が一番適していると言われるんですよね。丑三つ時を過ぎて、夜起きてた人も眠りにつきだして、朝起きる人ももう少し眠るような時間が一番しんとしてて邪魔するものがないし、集中できるでしょう。あとインドってすごく暑いから太陽が昇る前に涼しい時間帯にやるというのもあって。それまでクラブとか夜の世界で生きて来たけど、子どもができるとどうしても朝型にならざるをえなくて、そういう生活環境ともマッチしたんです。

 うちのスタッフが紫穂ちゃんから習っているというのもあって、たまに教えてもらったりするけど、「あ〜ヨガね」とかイメージだけで判断しないで飛び込んでみないと分からない気持ち良さってあるよね。

 日本だと、ヨガって女性がきれいな格好してきれいなスタジオで、ってイメージが先行してるけどあれは完全なビジネス戦略。あと最近の子からよく聞くのが「そろそろ年齢的にヨガしたいんですよ」っていう言葉。そんな子は結婚や出産のことを考え出した20代半ば過ぎた頃で、「有名モデルさんがやっているのを知って、私もそろそろやらないとヤバい」みたいな。ヨガって20代後半から30代とかちょっと落ち着いた世代の女性がやるものって思っているのよね。

 それって完全に女性誌が作り上げたイメージだよね。

 その入りかたでももちろんいいんだけど、もともと修業の一つとして始まったというのもあって、世界的にみたらストイックにやっている人の大半は男性だからね。うちはそんな商業ベースとか一線を画して、ヨガの本質を伝えていきたいと思っているからね。

C 大石さんも紫穂さんも、分野は違えど同じ美を作り出す仕事だと思うんですが、互いの意識で共通するものとかありますか?

大 おれが紫穂ちゃんに感じるのは、モデルとして見た目がいいとかを越えて、アイコンとしてかっこいい女性。DJをやっているのもあるし、生き方、考え方とかライフスタイルとして素敵だなと。同じように美容室も腐るほどあるし、ほかとの違いをどう出すかといえば、チクロに髪を切りに行くことがライフスタイルとしてステイタスになる存在にならないと。コンビニで発泡酒飲むのもお酒だけど、バーで飲む一杯の方が素敵な過ごし方でしょ。

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C 大石さんが考える女性の美しさってどういうところですか?

 まずはデザインとしてつま先から頭の先までのバランス、雰囲気がとれていること。でも段々おれも年をとってきて、肌も髪も水分が大事だなと思うようになってきたね。やっぱ水分って若さの象徴だと思うんですよ。ぷるぷるとかピチピチっていう肌のマテリアルとか。それを意識して炭酸スパとかも取り入れたりもしているけど。あと、お客さんが自宅できちんと毎日仕上げてくれるかも大事かな。コテで巻いたりメンテナンスをちゃんとしてたり。だってうちで髪を切って2ヶ月間ばっちりにしてもらわないと、周りから「かわいいね」とか言われてモチベーションも上がらないし、結果、チクロで切ったらこんなにいい感じになるっていうブランディングにもならないからね。そういう意味では、ただその場で「美しさ」を作るだけじゃなくて、その道筋を伝える教育産業なんかなと思うね。

 それはうちのスタジオも一緒。私はヨガのレッスンでは、正しい視線と呼吸、そして姿勢(形)を大事にって教えているけど、それをレッスン中だけじゃなくて、普段の生活でも、ちゃんと相手の目を見て話すとか、姿勢がいいとか実践できている人って素敵だろうなと思うもんね。

C 自分がどんな姿勢でどういう風に生活しているかって客観視するのは難しそうですね。

 たしかに自分を客観的にみるのは難しいですよね。でも、日本人て自分がどう見られているかを気にする人が多いけど、それよりどう見られたいのかを考えるほうが大事だと思う。とくにファンてわけじゃないけど、あのパリスヒルトンが何かで語ってて本当にそうだと思ったもん。自分をどう見せたいかで、周りからの印象はいかようにも変えることができるって。

 おれも美容室のカウンセリングでも「今日はどうしますか?」って絶対言わんどこうって思うもんね。それより「今日はどんな気分ですか?」とか気分を聞いて、それに対してこっちが主導権を持って提案していく。そうしないと心も動かないと思うしね。

 スタジオに初めてくる人に「どういうの望みますか?」って聞くのよね。そしたら「初心者だからわからなくて…」て言うんだけど、よくよく聞いたらちゃんとこうなりたいというのがあるんですよ。多分みんなこうなりたいとかいう理想像はあるけど、それが本当に正しいのか自信がない。だからグッとそこに引っ張ってってくれる人を求めているんだと思う。いまハワイ島でラバ(溶岩)の流れで町がいっこなくなるかもって言っているけど、みんなのんきに暮らしている。みんなエネルギーの大きいものには惹かれるものだから、私もそんな存在を目指したいなあと思うよね。

C 今後の目標を教えてください。

 移転したのもあるけど、数字的なものはこだわっていきたいね。野球選手が打率や打点にこだわるように。いいデザインとか時間かけたら誰でもできると思うから、どれだけいい作品をつくれるか、何人にいいって言ってもらえるかだよね。それと、おれらが提供したいのはなんなんだというのは問いかけていきたい。今までの美容室とは違う方向からアプローチしていきたいね。

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C 違う方向からというのは例えば?

 おれらみたいにスタイリストがカジュアルな格好でカットするとか少数派なんですよ。だいたいシャツとかきちっとした格好でやるから。でも元々がアングラなノリだからそこは変えたくはないなと。

 見た目から整えているとこが多いんですよ。私、昔からひとから髪を切られるのもメイクをされるのも大嫌いで。“バチッと毛先を揃えました”っていうのが苦手で、自分の好きな感じがくずされてしまうみたい。大石くんに切ってもらっているけど、美容室に行ったくせに切らないで!って言ったり(笑)。

 馴染んだ感じがいいんよね。

 そう、もともとこうだったねというのが好きで、自分のものにしたいんです。パキッとしたいときはいいんですけど、毛先だけ新しいていうのが馴染めなくて。

 ドレスアップしてヒールとか履くときはきれいなほうがいいけど、ドクターマーチンのようなワークブーツは、新品だと格好悪いみたいな。

 笑。そう、ドクターマーチンとかスニーカーとかね。でもルブタンだったらピカピカなんだけど。でも、そう、表面からとりつくろうところが多いと思うんです。ヨガスタジオだったら鏡とか照明とか、イメージを作り上げちゃう。それはビジネスではいいけど好みではない。

C ビジネスではないなら紫穂さんにとってヨガって何ですか?

 うーん、難しいな。多分、こっちから提案できる場所? 人によって望んでいるものも体つきも違うから、その人の意識をくすぐるような。昔、親が勉強しなさいとか宿題やった?とか言っててうるさいなーとか感じてたと思うんんですけど、成長してくると親が言ってたのはこのことだったのか、とか思えたりするじゃないですか。そんな場所になりたいですね。そして将来的にはもっと総合的な空間にすることかな。いまはヨガだけだけど、質のいい料理を振る舞って、いい音楽をかけて、さらには泊まれるような。海外にはそんな「リトリートセンター」があって、森の中や海辺とか豊かな自然に囲まれてて、コンシャスな食べ物がついてて、昼間はダンスパーティーやっててというところが沢山あるんです。日本にも、北海道と京都と福岡、沖縄にそんな場所があると最高だねって思います。




大石 卓
美容師
1973年 久留米市生まれ。ticrohair(fukuoka)代表 。2014年8月に、25年間生まれ育まれた店舗を大名から今泉に移転。
http://www.ticrohair.com/
http://various49.com/


宮脇 紫穂
ヨガ講師、DJ、サウンドクリエーター
10代後半からDjとしての活動を始め音楽に導かれヨーロッパへ旅に。DJ、音楽制作、モデル、カメラマン等のクリエイティブ活動を通して2000年頃からYogaに傾倒。2009年から南インド/マイソールやハワイの師につき、ヨガを毎年学んでいる。国内でも数少ないAshtanga Yogaの正式指導者としてKPJAYIから認定されている講師。ハワイ島やオワフ島でヨガとローフードのリトリートを年1回実施している。patagonia Japan認定pro purchase
http://www.limt.jp/
http://www.limt.jp/yogalimt/top/index.html
https://soundcloud.com/shihothepurplehaze/

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