Know Oneself

自分のスタイルを知ることの大切さ

Photographs by Ryoko Kawahara,Edit&Words&Photographs by Masafumi Tada

新しいものに対する価値を大切にする人が多く、
アートや音楽をはじめとする様々なカルチャーがあふれる街、ニューヨーク。
7月上旬の出張滞在中、福岡から別々に訪米していた2人のアーティストと一緒に街を歩くことができた。
一人は原生種の蘭を販売しながらグラフィティでも活躍する内田 洋一朗さん。もう一人は80年代のアイドルをモチーフにした作品を手がける若手のグラフィティアーティスト・KYNE(キネ)。
今回のFEATUREは、ニューヨークで彼らと訪ねたアーティストのスタジオや街で感じたことなどをレポート的にお届けしたい。


内田さんと合流したその日、拠点としていたロウワーイーストサイドのアパートからすぐのbitformsというギャラリーで、あるエキシビジョンの初日に遭遇することができた。到着すると中に入れきれないほどの人で溢れかえり、ただらなぬ盛り上がりに圧倒されてしまった。

IMG_4650 この何かが始まろうとする高揚感のようなものに驚いていた時、
「新しいものに対する許容力みたいなものが高いですよね」と内田さん。

C「それって何かワケがあるんですか?」

「国の歴史が関係しているかもしれないですが、スッと新しいものに入っていく感じがしますし、普段の生活の中から自分のできることを見つけ、それを自然と表現しているように思えるんです。日本は長い歴史があり、それを重んじるが故に新たな可能性が薄まることがあるかもしれませんが、こっちはそういう印象ですね」

内田さんはボストン留学時から数えると幾度となくニューヨークに来ているということもあり、街のことを冷静に見ることができ、様々な角度から色んなことを教えてくれた。そして、以前来た時から変わっているもの、変わっていないことも含め、街全体を楽しんでいるようだった。

その熱気溢れる会場から出たところで、
このギャラリーに来ていたニューヨーク在住の日本人アーティスト・山口 歴(やまぐち めぐる)さんという方を知人に紹介してもらった。


2007年に渡米したという山口さんは、当初、現代美術作家のアシスタントをしながら自らの制作活動も続けていたという。その中で透明のビニールやガラスに数色の絵具を流しこむように塗り、絵具が乾いた後そこから剥がして貼り合わせる「カットアンドペースト」という独自の手法を見いだし、キャンパスのほかにも、彫刻、ビルの壁面やCDジャケットなど、多くの作品を制作している。

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PROMINENCE 2011
Acrylic, epoxy resin and spray paint on canvas, 36 x 47 in

翌日、山口さんの制作スタジオに内田さん、KYNEらと訪ねることができた。ブロンクスのヤンキー・スタジアムから程近い、教育や福祉施設のほか、芸術、ダンス、音楽などに焦点をあてたコミュニティセンター「The Andrew Freedman Home」という建物の2階に制作スタジオがある。
訪れる前は倉庫のような場所にあるスタジオかと勝手にイメージしていたので、緑あふれる立派な庭の中に、大きな邸宅があるというようなロケーションに感動してしまった。

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「元々、この建物は1907年にアメリカ・ニューヨークを発端とした恐慌時、
大富豪が家を失いそうになる人達のために建てた集合住宅のようなものだったらしいですよ」というエピソードから、作品づくりのこと、ニューヨークで制作活動をすることなど、山口さんから話を聞くことができた。

C「今は街に慣れたかと思いますが、ニューヨークに来た時はどうでした?」

「英語の自信がなかったせいもあってか、外で食事をするのも苦手で、グロッサリーのレジ前にあるチョコを買うのがせいいっぱいでした笑」

「受け答えとかが、すごく丁寧ですよね。アーティストっぽくないというか笑」

「アシスタント時代の師匠が厳しい方だったので、その時の名残りですかね笑」


そんな感じの話をしていると、スタジオ内に制作過程で自然と飛び散った塗料やアクリル樹脂の塊を内田さんがふと見て。

「ここに書いてもいいですか?」

「あ、どうぞ」

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C「なんて書いたんですか?」

「固まってる透明のアクリルがプールっぽく見えたので、プールにまつわる幼いころのことを書きました笑」


二人の共作には至らなかったが、ここから新しいことができたらと面白いだろうなぁと思いつつ、ユーモアのあることが書かかれた、そのアクリルの塊を床から剥がしてもらえないかなぁなどと善からなぬことまで考えてしまった。

IMG_4716 制作スタジオにて、山口歴さん(右)、内田 洋一朗さん(左)

C「歴さんは、日本にいた頃からアートに興味があったのですか?」

「小さな頃から、浮世絵や印象派の画家のポストカードなどを模写していて、小学校くらいから西洋画を習っていました。中・高校生くらいの時、欧米のグラフィティなどにも興味が湧いてきましたね。その後、美大を目指して勉強していた時に、人からの見られ方というか、このまま日本で絵を描いていると道楽しているかと思われるかもと感じ、ニューヨークに来ました」

K「実際に来てみて、そのあたりはどんな風に感じました?」

「ニューヨークは、アーティストの競争率が高いけど、ファンも多い。だから“絵”で食べている人もふつうにいるし、それが珍しいことではない。そして、アーティストは教養があって、いいことをしているというようなイメージをもたれていますね。アートやアーティストに対する価値観のようなものが、日本とは違うようにも思えました。だから、個人的には集中して制作に取り組むことができます」

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C「描き方についてなんですけど、複数の色をランダムに混ぜているようにも見えるのですが、混ざった色の仕上がりイメージはできているんですか?」

「いまは、できていますね。この手法を始めたころは感覚的でしたが、コントロールできるようになりました。ただ、透明のビニールの上に複数の色を流し込み、その色を混ぜるように伸ばして乾かし、それを剥がして作品を作るのですが、そのビニールの裏側から見た配色がカッコイイときは、そっちを使うなど、意図しない偶然の良さも取り入れています」

IMG_4729_Fotor 山口さんと初対面だったKYNEは自分の作品がのったステッカーを渡して、軽く挨拶を。

KYNEは自身の活動などについては多く語らず、自分の興味のあるものや過去に影響を受けたものなどを話すタイプなので、ここで彼の紹介を簡単に。
モノクロでシンプルに女性像を描くグラフィティアーティストで、
2006年ごろから福岡を拠点に活動をはじめ、その範囲は街だけではなくギャラリーやショップなどで作品展も行なう。最近では、アパレルブランドとのコラボレートや、CDジャケットのイラストなども手がけている。

S__9601031 DSCN1893 個展や街でのKYNEの作品


その日のスタジオでの交流はわずかな時間であったが、
後日、KYNEは山口さんと行動を共にし、
画材屋へ行ったり、再度スタジオへも行き作品を描いたりしたほか、
宿泊先を確保せずにNYへ来ていたので、
同氏宅に宿泊までさせてもらうなどしている。
その中で彼が得たものは非常に大きかったという話を帰国後に、
内田さんも交えて聞かせてもらった。

K「普段はスタジオで他の人が描くというはことないらしいのですが、自分は自然に描かせてもらえました。世代の近さや、好きなカルチャーなど通ずるもの、人の波長みたいなのが合ったのかもしれませんが、嬉しかったですね。そして、歴さんをはじめニューヨークで制作活動をしている日本の方は、日本を客観的に見たり、自分を日本人だと理解した上で、その土地で表現しているように感じました。そして、憧れだけではやっていけないところだとも思いました」

「KYNEくん、初めてのニューヨークでいろんなことに気付けてよかったね。そういうのがあるのとないのでは、全然違うと思う(今後の制作活動を含めて)」

K「ニューヨークでは福岡でなかなか見ることができない、トップクラスの人たちの作品をふつうに見ることができたという喜びもありましたが、そういうアーティストとしての内面的に気付いたことも多かったです」

「グラフィティなどに代表されるストリートからのアートやカルチャーって、アメリカに比べるとファッション的な感じもしますよね。向こうは自分のアイデンティティを表現するものが、それしかない、それで何とかやっていきたいということで、人の目につくところで表現するんじゃないんですかね。そして、それでチャンスを掴む可能性のある街が、ニューヨークやロサンゼルス、サンフランシスコだったりするような気がします」

C「KYNEくんの作品はニューヨークでどう捉えられそう?」

K「自分は日本のサブカルチャー(アイドルやヤンキー文化)が好きで、それが作品のエッセンスになっている部分もあるので、そのあたりの価値観のズレのようなものはあるかもしれないですね。ただ、誰もやっていないという点では可能性も感じますけど笑」

「KYNEくんも自分のスタイルがあると思うし、僕も文字(グラフィティ)というのがあって、そういった自分はこれでいくみたいなものを、見つけられるかが大事な気がします」


今回、それぞれが個別に訪れていたニューヨーク。少しだけ時間を共有できたおかげで、多くのことに気付けた実りのある旅となった。
そして、帰国早々に二人の作品を福岡の街なかで見られる機会が訪れた。
9月17日、博多駅近くにあるWITH THE STYLE FUKUOKA内にオープンする、”ホテルの中にある最高の売店”をコンセプトとした「FROM WHERE I STAND」 というショップからの依頼で、工事期間中の仮囲いに作品を描くというのだ。
ショップ名の頭文字をとった「F W I S」の一文字ずつに描き、東京からの峯崎ノリテルさんが「F」、加賀美 健さんが「W」、そしてKYNEが「I」、内田さんが「S」を担当。
RYO_1607a RYO_1455 帰国時、KYNEは、このプロジェクトで描くテイストをニューヨークの街の中で見たようなゴチャゴチャとした感じにしようかなど話していたが、仕上がりは本来のスタイルでシンプルだが独特の印象が残る作品に。

そして、内田さんの作品をこんなに大きなサイズで見るのは初めだったが、文字のバランスやリズム感などからとても楽しそうな感じが全面に出ているように思えた。
描き終えて汗だくの内田さんに声をかけてみると、
「このサイズ、クセになりそうです。無心で描いていたら楽しさ超えて気持ちよくなってました笑」と。

自分の個性を表現する仕方を知った者たちのパワーのようなものを感じ、
見ていたこちらまで興奮してしまう、そんなライブペインティングだった。
このようなエキシビジョンを福岡からニューヨークへ
持っていける日がいつかくることを期待したい。


※“仮囲いの展示”は店舗のオープン前までの、9月1日ごろまで設置の予定。





山口 歴(やまぐち めぐる)
1984年、東京都生まれ。ニューヨーク在住。
幼少期より浮世絵や印象派の画家のポストカードの模写をし、小学校より西洋画を学ぶ。その後、欧米のグラフィティやポップアートへも傾倒し、そのアーティストのテクニックや表現技法に興味を持つ。2007年より拠点をニューヨークに移し、「カットアンドペースト」という表現手法で制作活動をし、勢力的に作品展を行なっている。http://meguruyamaguchi.com/
ALL IS FLUX
8/13〜9/27まで、SOHOにあるplus81gallery NYにて、個展”ALL IS FLUX, NOTHING STAYS STILL“を開催中。 今回、ニューヨーク在住日本人の写真家・Akimoto Fukudaとのコラボレーション作品も数点、展示されている。
 




内田 洋一朗
1978年、福岡生まれ。
原種のランを中心に販売するPLACERWORKSHOPのオーナー。 グラフィティアーティストとしても活動し、アパレルブランドやショップ、ライフスタイル誌などとのコラボレートなど多数。 自身が手がけるプロダクトライン「MOGNO6.」も展開する。ショップは福岡市中央区薬院にPLACERWORKSHOP No.Y、同区大名のmanu coffeeにてNo.2を構える。http://www.placer-workshop.com
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KYNE(キネ) 
福岡生まれ。 年齢30代前後。
デザイン関係の高校、美大へと進み日本画を専攻する。
2006年頃よりグラフィティを開始。福岡を拠点に80年代のアイドルをモチーフにした女の子を描き、街での活動と作品展やデザインなども行う。アパレルブランドとのコラボレートアイテムやCDジャケットのイラスト制作なども手がける。






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