Frame of mind
意識していること、続けていくこと
Photographs by ©Alessandro Brasile, Hiroshi Mizusaki , Words by Yuko Matono,Edit&Cording by Masafumi Tada
今年4月に開催されたミラノ・サローネに、福岡に拠点を置く2人のデザイナー、インビジブル・デザインズ・ラボ(代表 松尾謙二郎さん)と二俣公一さんが出展した。
通称“ミラノ・サローネ”で知られるこのデザイン見本市、正式名称は「サローネ・デル・モービレ・ミラノ」。メイン会場となるローフェーラは、メーカー各社が集結した見本市のための場所で、それ以外にも大きなメイン会場が複数と、ショップや貸しスペースを使った小さな展示会が市内各所で行われている。今回2人の作品が展示されたトリエンナーレ美術館は、メイン会場のひとつで、ローフェーラ以外ではもっとも大きなもの。
トリエンナーレ美術館の展示「21st Century Design After」は、美術館側できちんとキュレーションされており、その中のアジア枠として、シンガポール拠点の中牟田 洋一さんとイタリア人デザイナーのティム・パワーさんがトータルキュレーションしたのが「alamak! DESIGN IN ASIA(以下、alamak!)」だ。「alamak!(アラマ)」では、アジアを代表する12人のデザイナーの作品を展示しており、そこにインビジブル・デザインズ・ラボ(代表 松尾さん)と二俣さんは選ばれた。(日本人では建築家の長坂常さんも選出)
「alamak!」とはいったいどんな展示会なのか、バーチャルに体験できる動画があるので、まずはこちらをどうぞ。
alamak project by Yeelon Lin
「alamak!」のキュレーションをした中牟田さんは、1985年にファーニチャーレーベルE&Yを福岡で創業し、当時の本社機能やショールームは福岡に存在した。まだ、学生だった二俣さんは、そのショップに通ううちに中牟田さんや松尾さんと出会い「アートとデザインを区別するのではなく、中間的な視点で活動していく、というようなことを2人から学んだ」と語っている。
福岡に拠点を置きながら、日本やアジアを代表するような仕事をし、海外でも広く認められているというのは希有なことだ。それを実現している2人が、今年はミラノ・サローネの同じ展示会に出展しただけでなく、旧知の仲であり、しかもどちらもCENTRAL_のDAYSメンバーだということも重なり、今回は「alamak!」に出展した作品の話や海外で活動する理由を伺ってきた。
二俣公一さん(左)、松尾謙二郎さん(右)
CENTRAL_(以下:C):松尾さんが今回出展された作品はどのようなものですか?
松尾(以下:松):作品名は「Ko-Tone Spiral Xylophone(コトーン・スパイラル・ザイロフォン)」。「Ko-Tone」は、電気をまったく使わない音楽システムのシリーズ名で、NTTドコモのCMで使われた直線のものが1作目。これは、屋内で展示するためにスパイラル状につくった2作目です。演奏時間は直線のものより短くなるけど、楽器を一種のデザイン作品としてつくりました。
二俣(以下:二):これが会場でとにかく大人気で、この作品の前にバーっと人が集まって、みんな面白がって見たり聞いたりしていました。
松:基本的にデザインで音が出る作品ってないし、動きのあるものもないし、そういう意味で面白がってもらえたのかなと。曲はドコモのCMで使われたものと同じ、バッハのカンタータ第147番。
転げ落ちる球が曲を奏でる、楽器でありアート作品でもある「KO-TONE Spiral Xylophone」
C:このスパイラルのKo-Toneの製作期間はどれくらいですか?
松:デザインディレクターと2年ほどキャッチボールしながらできました。今後もKo-Toneシリーズはつくるつもりなので、これをはずみにしたいなと思っています。
二:松尾さんは普段デジタルの音楽をやられているけど、僕から見ると、音を通じて家具のようなアナログなものと接してきた人、という感じがしているんです。だから、こんな風に音をアナログなかたちで表現して評価されたのは、松尾さんにとって自然なことのように思えたんですよね。
松:よく見てるな〜(笑)以前、イギリスに行っていた時代もルームメイトがデザイナーだったりして、僕の周りにはプロダクトデザイナーが多かったんですよ。彼らは、家具やプロダクトが人間とどういう関わりを持っているか、をすごく考えているんですよね。ひと言で言えば「機能」ということになるんだけど。
昔、すごく機能的なチェストをつくっている人がいて、それを見た時に若い頃の自分は「音の機能は何だろう?」「音に機能はあるのか?」と考えたんです。それをテーマに音楽を考えていくと、何か新しい自分の突破口ができるんじゃないかなと思って、サウンドインスタレーションみたいなものを続けていって、「音は目に見えないけど、触りもしないのに人の気持ちを動かすんじゃないか」という仮説を元に、色んな仕事につなげていった感じです。
サウンドインターフェイスみたいな考え方で、テレビのリモコンやボタンを押した時の音のデザインもしているんですよ。サウンドデザイナーとして、機能としての音をどうデザインするかということをメーカーにプレゼンしたりしました。
それから、音楽とは違う概念で音をとらえるプロジェクトもずっと続けています。楽器自体を音ととらえるプロジェクトがko-toneだったり、別のデジタルでやっているのがロボティックスのシリーズだったりと。
表現者としてはつくり続けることに意味があるし、音楽は今すごく変革の時で、ミュージシャンがレコードを売る時代ではないから、音楽をどういう風にとらえられるか、楽器をつくること自体が作曲だというとらえ方をしています。
そういう意味で、二俣くんや他の多くのプロダクトデザイナーからの影響を楽器にアウトプットしているという感覚がすごくあります。デザインが生活にどういう風に使われているのかに興味があって、ものをつくりたいという気持ちもすごく強かったから、自分の中では楽器をつくるのは理に適ったストーリーだったんです。
二:松尾さんがものをつくるとなったら、下手したら僕らよりも難しいことをしなきゃいけない立ち位置ですよね。ベースにあるものを注入しながらつくることになるから、動機もストーリーもわかりやすいけど、つくるのはすごく大変なことが多い気がします。
松:だからいつも、僕が一人でではなくてチームでつくっているのだと言っているんです。“できる人”たちが周りにいてくれるから成り立っているのであって、僕個人の作品ではないです。本当に色んな人に助けてもらっていると思ってます。
KO-TONE Spiral Xylophone @ Milano Triennale 2016 by mellowtronix
C:二俣さんの作品「Geometry Stool(ジオメトリー・スツール)」の反応はいかがでしたか?
二:作品の反応はよかったです。「alamak!」の入口のトップという、すごく良い場所に展示して頂けたので、象徴的に見てもらえたように思えます。このスツールは、イタリアのデザイン誌「domus(ドムス)」のBEST OF DESIGNに選ばれていて、メディアでも事前に情報が流れていたので、そういう情報を知っている人たちも来てくれました。
自然のラインを幾何学的に落とし込んだ、ずっしりと重いヒノキが薫る「Geometry Stool」
C:最初に東京の展示会「SHOWCASE」で発表した時と、今回海外で発表した時の反響に違いはありましたか?
二:素材のヒノキや銅、あとは形状で、海外では想像以上に“日本的”にとらえられていました。そういうつもりはあまりなかったのですが。
構造的には、銅がハブになって、すべての木材をビスで留め付けているんです。丸太は全部同じサイズで、1本の丸太を真っ二つに切って、裏返したりしながら、点と点でぶつけて固めているという。全部がきれいに整わないと点で合わないので、かなりの精度が必要なんです。
ヒノキは、床の間の床柱として使う、十分に寝かせ乾燥させた優良な木材を使っていて、最後は職人さんの手で、完全な円に仕上げています。
C:デザインする時はこの断面から思いついたのですか?
二:断面だけが最初に頭に浮かんで、それをデザインしていったんです。1本の丸太と2本の銅があればできるという工程のロジカルなこともありますけど、基本的にはこの断面からです。
年輪という自然のラインを持った素材を人意的に制御して完全に幾何学的に扱った時に、(自然のものと人工的なもの)そのどちらにも、美しくも、ある種の違和感のようなものが現れると感じていました。完全な幾何学の中に、自然の荒々しいラインが出てきたり、その逆もあったり。そういうものを徹底的に制御して扱うことがとても面白いんじゃないかな、という自分の好奇心もありました。
C:留める素材を銅にしたのはなぜですか?
二:ヒノキとの相性は銅か真鍮(しんちゅう)が合うかなというイメージはありました。海外で発表した時に日本的だと感じられたのと関係があるかもしれないですが、よくよく考えてみると神社建築も、それですね。やっぱり日本人ですね…
松:日本的な組み合わせだよね。
二:そうですよね。それを海外の人の方がより強く感じているのかもしれません。海外では、こういうシンメトリーなデザインも宗教的に感じるという人もいましたね。
C:国内、とりわけ福岡から、海外で発表する意義はどう考えていますか?
二:日本と海外は陸続きじゃないので、ヨーロッパの人たちより我々の方が輸送コストなど負担が多かったりします。しかし、デザイナーとして世界中の面白いプロジェクトに関わりたいなら、プロモーションの場所としてサローネはすごく有効です。ストックホルムやロンドンなど色々ありますが、サローネは注目度や話題性だけでなく、質も高いものが多いので、そこで挑戦したい気持ちになります。
サローネには、2008年にE&Yの展示で一度参加しましたが、そこからブランクがあったんです。3年前からは毎年展示や発表をする機会を頂けているので、これはずっと続けたいと思っています。続けていかないとわからないことがあると思うんです。サローネに来ている人たちだけが素晴らしいわけじゃないですが、意識の高い人が多いから、海外の方だけでなく同じ日本人と出会っても刺激になります。活動する上での良いネットワークもできるんです。
松:どんなにいい作家も見てもらえなかったら無名に等しいよね。ずっと感じてることだけど、作家の才能うんぬんよりも、人に見てもらうことの方がどちらかというと大事なのは、やっぱり運の持つ力がすごく大きいからだと思います。
僕は、人生の5割くらいは運だと思っていて、5割の運をより確実にする努力ができないと、運は生きてこない。運と言っても宝くじとかじゃなくて、自分が努力したものをきちんと人に見てもらう努力をすることが、結果的に運を高めると思っているんです。それを意識してない人は多いんじゃないかな。
サローネにはそういう意識の高い人が集まります。しかも、良いものじゃないとその中で勝てないから、全然注目されないものを出すと、逆に運を下げてしまうかもしれない。そういう意味では、良いものだからこそ出せるという前提もあって、2段階になっているんです。
そういうことをやっている人が集まるところに行くとすごく刺激になるし、そういう人とつながるとより深いネットワークになります。海外のそういう場所で出会ったということが、すごく意味があるんじゃないかなと思います。
二:毎年行っているといい意味で欲も出てきて、次はこういうものがやってみたいとか、あのメーカーと仕事をしてみたいとか、目の前でリアルにそう思えるから、自分の中で意思が固まっていって、日本に帰ってきてからも自然とその方向へ動いているんですよ。
松尾さんも言っていましたけど、それなりに良いものが当たり前の世界で、さらに良いものにしなきゃいけないから意識も高まるし、それがモチベーションとか良い刺激になって、空間デザインなど他の仕事にも影響していきます。だから毎年やりたいなと思うんです。
松:二俣くんみたいな人が福岡にいることに意味があると思うんだけど、東京じゃなくていきなり世界で勝負してるから、福岡にいるのはあまりデメリットじゃなくなるよね。
二:当たり前ですけど、海外の人にどこのデザイナーかと聞かれたら、日本だということになるから、その時点で東京とか福岡とかは関係ないんですよね。
今年はタイミングが良くて、ジオメトリー・スツールとは別に、2015年に行われた「DESIGN WORKSHOP JAPAN-SWITZERLAND」という日本とスイス2か国間のワークショップの成果展、それにベルギーのデザインレーベル 「valerie_objects」から発表しているカトラリーセットの展示が2か所と、全部で4つの会場で展示があったんです。それぞれの会場でコミュニティが違うし、接する人も文化も違うけど、デザインをやっているとその垣根がなくなってフラットにつながることができます。そういうものをサローネで実感できると、この仕事をしていてよかったなと思います。あとは製品化したものが売れてくれることを願うだけです(笑)
松:サローネみたいなのは、普段の仕事をちゃんとやって、そのなけなしのお金の中からやっているのが現実で、意外とそういうことをやっている人は少ないんだよね。
二:全体から見ると数えるほどしかいないですね。
松:さっきも言った運をつかむ努力っていうのは、結局自分の活動をアウトプットしているかどうかだから、そこをやりたいというのはあるよね。
二:失敗しても、なんかずっと続けなきゃいけない感じですよね。自分の中では、成功体験みたいなものはほぼないんですよ。ずっと試行錯誤していて、これでもダメかと思いながら、ずっとやっている感じで。でも、そういうことをずっと続けてると、思いがけず美術館のパーマネントコレクションの話が来たりすることもあります。
松:よく偉い社長さんが、自分はこうなりたいとイメージしなさいとか言うけど、そういうのは本当にあると思うんだよね。ちょっと運命論者みたいになっちゃうけど(笑)、僕は思ったことが本当に実現するんですよ。
ロンドンのバービカンセンターに行った時、ここに木琴を展示したいなと思ってイメージしたことがあったんです。そうしたら、1年後に木琴ではなかったのですが別の展示で行くことができました。イメージしているとそういうことが起こるんだなぁと。
イメージするというのは、次に自分が何をするかを決める作業だから、イメージがないとつながらないというか、単なる運頼りになってしまう気がします。二俣くんが毎年やると言って続けているのも、イメージをする大事な作業なんだと思います。僕なんてすごい面倒臭がり屋で、基本的には寝ていたい人だから(笑)
二:あの木琴、面倒臭がり屋のつくるものじゃないですよね(笑)
松:でも、面倒臭がっていても何も進まないと分かっているので、「この日に、ここで何かやります」って宣言したりするんです。そのプレゼンが通って、後で泣きながらやることになったりして。
二:でも僕もちょっと近いところがあって、基本的には怠け者なんですよ、ほんとに。だから、サローネもそうですけど、油断しないように、とにかく「続ける」って決めるんです。
僕は続けるのだけはとりえで、例えば、東京事務所も途中で無くそうかと思ったくらい仕事がない時もあったんですけど、とにかく続けると決めたから、何も考えずに10年間ずっと行き来を続けました。ずっと続けていると何かが付いてくる、というのが40歳になって何となくわかってきました。
続けるって結構大変で、途中で「これ意味あるのかな?」って疑いたくなることもあるんですけど、僕は疑問に思った時にやめないのかもしれないです。ほとんどの利口な人は、そう思うと途中でやめてしまうんじゃないですかね。続けていると開けてくることがある気がします。
松:続けている時にね、運を左右してると思うよ。って最後までいちいち運を出しているけど(笑)
世界へ活動の幅を広げる人にとって、日本のどこに拠点を置いているかはあまり関係がない。それよりもデザイナーとしての挟持を持ち、お金を稼ぐことだけが目的ではない仕事を意識してやることが重要で、そうすれば日本だけでなく世界中の同じレベル、もしくはもっと高いレベルの人とつながることができるということだろう。そう考えると、作品の話から最後には仕事論、人生論に行き着いたのも納得だった。これからも2人がそれぞれにどのような仕事を見せてくれるのか、楽しみで仕方がない。
alamak! DESIGN IN ASIA展
会期:2016年 4/2〜9/12
会場:ミラノ・トリエンナーレ美術館(Viale Emilio Alemagna, 6, 20121 Milano, Italy)
時間:10:30〜20:30
休館日:月曜
http://alamakproject.com/
松尾 謙二郎
1966年福岡出身。クリエイティブプロダクション インビジブル・デザインズ・ラボ代表 作曲家、クリエイティブディレクタ、アーティスト、音楽ディレクタ、音楽プロデューサー サウンドを軸とした物作りでアナログ、デジタルをまたぐクリエイティブで活動中。 ソフトウエア、ハードウエアを駆使した表現への挑戦を続けている。 近年のWORKS SQUAREPUSHER X Z-MACHINES EP 音楽プロデュース NHK Eテレ TECHNE 音楽担当 森の木琴 製作+音楽ディレクションなど。
http://invisi.jp
二俣 公一
デザイナー。1975年鹿児島生まれ。”CASE-REAL”(ケース・リアル)と”KOICHI FUTATSUMATA STUDIO”(二俣スタジオ)主宰。1998年より福岡と東京を拠点に国内外でインテリア・建築・家具・プロダクトと多岐にわたるデザインを手がける。作品の一部はサンフランシスコ近代美術館の永久所蔵となる他、受賞多数。
http://www.casereal.com
http://www.futatsumata.com