BACK TO LIFE

積み上げてきたものを自然な形で

Photographs by Hiroshi Mizusaki, Words&Edit by Masafumi Tada

福岡・赤坂にある路地の一角にオープンした『KIYONAGA&CO.』。ファッションブランド〈SOPH.〉などを手がける、清永浩文氏がプロデュースする。「ことし50歳を迎える節目ということもあって、新年度がスタートする4/1にオープンしました。20年近くやってきた〈SOPH.〉とは違ったアプローチで、自分の好きなアートや家具など、ファッション以外のものも並ぶ、自身を出していくようなパーソナルなショップという感じでしょうか。完成形ではないので、これから少しずつ育てていきたいです」と話すように、
取材時は広島のギャラリー『SIGN』とのポップアップ企画が開催され(4/23で終了)、ル・コルビュジエとピエール・ジャンヌレによる家具と、写真家ホンマタカシ氏の写真が店内の一部で展示され、一方では清永さんが企画したTシャツやスウェットのほか、デニム、シャツ、ソックスといったここだけでしか購入することのできないアイテムが、白で統一された空間に並んでいた。まさに実験的であり、“清永さんの部屋”のようなショップとなっており、そんな新しい試みを福岡で体感することができる。

今回の特集は、CENTRAL_にも参加し、この空間のデザインを担当したCASE-REALの二俣さん、福岡からアパレルブランド〈FUJITO〉を発信する藤戸さんにショップへ来てもらい、清永さんとクロストークした模様をお届け。取材前日の夜の席でも一緒だったという3人は和やかな雰囲気のなか、1時間半にわたりショップの構想から空間デザイン、キャスティング、いまの福岡の街についてまでを語った。




CENTRAL_ (以下:C) 福岡にショップを出そうと思った経緯を教えてください

清永さん(以下:清) 約一年前から、九州にはよく来ていまして、大分に実家がある兼ね合いもあり、福岡と東京の2拠点生活をしていました。その中で、いろんな人と出会い、少しずつ“何かお店ができたらいいな”と思い始めたんです。去年の夏、ここの物件が出てきて、歩いて30秒ほどのところに路面店のSOPH.福岡店もあり、通りに面した角で気持ちよかったので借りようと思い、物件を借りたところから始まり、さてさて何をしようかなといった感じからスタートしました。何かを始めようと場所を探したのではなくて、福岡や、この場所に縁を感じたからですね。

藤戸さん(以下:藤) その話を聞いた時、驚きました。福岡に住んでみて、街を知っていきながら、場所が決まって、そこから進めていったという。普通、お店を出す時は逆が多いですよね。こういうことをしたいから、人通りがこれくらいある場所を選んで、みたいな。SOPH. 福岡店の時は、そうされたのかもしれないですが。

:SOPH.福岡店の時も、そこの建物自体をThe Archetypeの荒木くんが建築していて「ここ、どう?」と、声をかけてもらった感じだったので、物件ありきでしたね。だから、この場所も決まっていなかったら縁がなかったんだなぁと思っていたでしょうね。諦めがいいというか、そういうタイプみたいなので。


二俣さん(以下:二) 清永さんが福岡へ来られるようになった頃から、お会いするようになって話をさせてもらってきましたけど、“何かこうしたい”と、ねじ込む感じは全くなかったですね。淡々と、人と会ったり、気になる場所へ行ったり、食事をしたりと、自然な流れの中で、“じゃあ、やろうかなぁ”といった感じでしたね。

:時の流れに身を任せるではないですけど、あまり流れに逆らわない人なのかもですね。

:この1年、福岡で人と会いながら、“この人とは何かができるんじゃないか”、みたいなことを自然とされてきたんですかね。

_DSC5430 清永浩文氏



−ショップコンセプトについて

: Webによる販売などもなく、ここでしか買うことができないですよね?
コンセプトのようなものはあるんですか?

:Webでのオンライン販売、通販、卸もしていないですね。プレスリリースを作る段階になって、なんとなく“今後の人生に必要なもの”というようなコンセプトは出てきました。

:何を販売しているのかということも告知されていないんですか?

:特に告知はしてないんですけど、今はTシャツ、カットソー以外だと基本的にはシャツとデニム、ソックスの3品番と、ロゴの入ったスーベニア的ものを販売しています。今後、どこまで広げるかというのはありますが、ゆっくり増やしていけたらと思っていますよ。興味がある方はハッシュタグなどを辿って来店されますから、こちらから全てを伝えるという感じではないですね。告知をして、発売前にすべてを見せてしまうとお腹いっぱいになってしまいますからね。

:事前に情報が溢れると、感動が薄れてくるというのはありますよね。

:それに、今はショップに行くという意味や、面白さがなくなってきていますよね。

:自分も、国内外で同じような体験をしていて、事前にネットで見て商品がないと、ショップを訪れないことがあったんです。だから、“行ったら何かあるかも”というショップがあるといいなと思って。ここがオープンして1か月ほど経ちますが、完成形ではないのかもしれないですけど、そういうショップにゆっくりと育てていけたらなとは思いますね。


C:空間デザインを二俣さんに依頼しようと思ったのは?

:98年頃に〈SOPH.〉を始める時、僕と荒木くん、カメラマンの内田将二くん、SILENT POETSの下田くんの4人で事務所をシェアしていたんですね。で、事務所のメンバーに何でも依頼していて、店を出す時は、荒木くんに依頼するみたいな、“そこに荒木くんがいたから”といった感じ。同じような感覚で、福岡に来るようになって、二俣くんと会っていく中で、“店をすることになったから、よろしく!”みたいな。

:最初、“荒木さんじゃなくていいんですか”とは思いましたけど。

:今回、二俣が空間をやって、荒木さんが什器を担当されるという組み合わせを知った時は驚きました。荒木さんと二俣の関係を知っているだけに。

:学生時代に、荒木さんのお仕事を手伝いさせてもらっていまして、後にも先にも誰かの元で仕事をしたのは、荒木さんだけですからね。厳しい方だったので、荒木さんの元を離れてからは気軽に連絡して会う感じではなかったんですが、ここ2,3年はたまに東京で会うようになりました。

:去年の春ごろ、六本木ヒルズに〈SOPH.〉を出店した際に、二俣くんが来てくれ、荒木くんと立ち話していたりと、たまに会っていたみたいだね。彼は“スーパー厳しい人”なんだけど、今だったら、こういう組み合わせも面白いかなというのと、荒木くんからしてみたら、自分のところにいたスタッフが、こうなっているというのが嬉しいんじゃないかなと思ったんですよ。


_DSC5428

C:空間デザインをする上で大事にしたものは?

:先にもあったように物件が決まってから、話が進み出したんですけど、その前のタイミングから福岡で食事などご一緒させて頂き、東京でもご自宅に訪問させてもらうなど、時間を共有させてもらう中で、清永さんイコールこういう感じだというのを、なんとなくつかんでいったんだと思います。

今回のショップは、“清永さんのそのまま”だったので、空間に色気を付けるとかではなく、あくまでもニュートラルの機能が的確に達成できるということで、悩んで試行錯誤したという感じではなかったですね。空間の仕事をする時は、そこの空気を大切にしているので、その空気イコール清永さんだったのかなと思います。

あとは、ショップやギャラリーにもなるということだったので、ホワイトキューブとして機能するように大きな引き戸を用いています。そこから連想したファサードは3枚の自動ドアにし、間口を極力大きくしました。

:什器は、空間の方向性が決まってから荒木くんに説明し進めてもらいました。什器も販売しているので、こちらからのリクエストではなく、荒木くんの作品として、売り物として作ってくれとオーダーしたんです。

: 床にダグラス材(米松)を使用しているのですが、その床材を使ったベンチが秀逸でして、実(さね)加工までもそのまま生かし、ダグラス材をおさめる真鍮の実(さね)は面白いディテールとなっています。荒木さんらしいディテールに改めて関心させられました。

:そのへんのキャスティングの妙のようなものは、清さんだからできたオファーですよね。聞くと自然な流れですし。

:そう考えると、お店だけではなくて全部そうですよね。この20年間、清永さんが積んでこられてきた中で、自然と残っているもの、使っているもの、関係があるものが、ここにつまっている感じがします。


_DSC5493 _DSC5496 _DSC5445 二俣公一 氏


− 福岡でのキャスティングについて

:今回、福岡を拠点とする人々とも一緒に企画されたアイテムもありますが、この人と仕事してみたいというのはあったんですか?

:『NO COFFEE』の佐藤くんは、以前から知っていまして、福岡へ来るようになりコーヒーを飲みに行くようになって、次第に自分の店を出すことが決まったので、オファーさせてもらいTシャツを作りました。KYNEくんは、先日オープンしたUNION SODAの小寺くんから紹介されてアトリエへ行ってみたり、彼が東京に来た時はギャラリーを紹介したりと、一緒に時間を過ごして行く中でといった感じです。

PLACERWORKSHOPの内田くんともそうで、お店に行ってみたり、食事の場で会ったり、彼がTHE PARK・ING GINZAの仕事で東京に来ていた時に会ったりと。この二人って、福岡のスターのような存在ですから、大切にしたいじゃないですか。だから、KYNEくんとは、新作ではなくNO COFFEEの延長上でのアイテムにしました。内田くんには、好きな仕事をお願いしたかったのと、気持ちが入りエレクトするような仕事を依頼したかったんです。最初、内田君のお店に行った時Massive Attackの前身にあたるWild bunchのTシャツを着て行ったのですが、内田君がそれに反応したのでその辺りが好きなんだと思い、今回のために『Diggin’massive』というミックスをDJ MUROくんに作ってもらいノベルティとしても配布したのですが、そのタイトル文字などを依頼しました。

:それ、依頼された側からしたら、嬉しくて、たまらんですよ。“今度、清永さんが、店出すらしいよ”くらいだったら、分かるっすけど。“仕事きたばい”って。東京で、“清さんと仕事したいんです”ってドアを叩くっていうストーリーではなく、清さんが福岡の街に自然にいて、そこから派生して、一緒にやろうよという流れが福岡でないとありえないなと。僕らから、お願いしてできる仕事じゃないなと思いまして。

:藤戸くんはアパレルやっているから分かると思うけど、90年代って、その場所や、まわりにいたから一緒に仕事していたみたいな。その感じですよね。

:確かに、当時はそのノリで仕事がつながっていましたもんね。今回、清さんが福岡でそれをやってくれたのでハッとさせられました。


_DSC5474 藤戸 剛氏


−福岡の街における“個”について

:いま、90年代ブームというか。海外のブランドもグラフィック系のものが人気ですよね。そういう海外のブランドも90年代の裏原を勉強していますし、そういうコミューン的な“個”の付き合いが大事な時代で、それがウケている時代のような気がします。その中でも特に福岡は“個”が強いんですよね。

:それも言われてみて、ハッとしました!

:自分の場合、福岡で行くとこ、行くとこ個人商店なんですよ。そういうところにしか行ってないのかもしれないですけど、オーナーの顔が見える店にしか行ってないですね。みんなも、そういうところが好きみたいですし。そこがいいところなのかなぁと思っています。その最先端を藤戸くんがやっているしね。個の中の個みたいな(笑)。

:はい、“藤戸商店”をさせて頂いてますね(笑)。僕の場合、ペースなんかも含めて福岡じゃないとできないと思うんです。

:そういうのが福岡は面白くて、僕が東京の時から知っていて福岡に移住したFRUCTUSの成田さん、NO COFFEEの佐藤くんも“個”でやっていて、店にも立っているし、まわりともいいバランスで、刺激しあいながらやっているのが、楽しそうに目に写りましたね。それが、いい広がりをしていて、今面白いんじゃないかぁと思います。

:店に行ったら、だいたいの人がいますもんね。この店の、この人に一票入れたいといった感じがありますよね。

:お店同士の場所が離れていても、その“個”が際立っていて面白いですよね。ただ、“個”が点で終わってしまわないように、この先の街づくりをイメージしていてもいいのかも。逆質問ですが、皆さんから見て福岡ってどうですか?

:いま、福岡は一番面白いと思います。ビジネス的に言うと日本で一番厳しいと思います。逆に、この街でやれると、どこに持っていってもいいんじゃないかと。最近になって思ったのは、清さんのように東京や世界から来る人が増えているので、ふだんだったら会えないような方々とお会いできる機会も増えましたよね。二俣とも話すんですけど、僕らはたまたま福岡に残っちゃったんです。こだわって福岡にいたわけではなくて。そしたら、街が注目されはじめ、いろんな人が来るようになって刺激ももらえるようになって、いま一番いい時期に入ったなぁと思っています。ただ、その“個”ではないですけど、ブームみたいなことにならなかったらいいなという危機感もありますね。

:今まで、計算して福岡にいたわけじゃなくて、淡々と続けてきただけなんです。いま、“福岡、福岡”って言われますが、バッと盛り上がり過ぎると消費されて終わりそうな感覚もあるので、“今、この街がチャンスだ!”みたいな気持ちでいない方がいいと思います。ただ、業種によっての違いはあるかもしれませんが。


_DSC5463

:清さんは、東京で生活されている時と、福岡で生活されている時の気持ちのメリハリのようなものはあるのですか?

:〈SOPH.〉を始めて20年くらいになるんですけど、なんとなくオンオフが切り替わらないまま、あっという間に1年が過ぎていき、今年は50歳という節目を迎えます。だから、福岡にいる時は強制オフモードにするような感じで過ごさせてもらっています。けど、お店がオープンしたので強制オフにはなりませんが(笑)。ただ、福岡はスピード感もあり、刺激もあり、東京にあるものもあり、移住者も多く人口が増えていますし、いろんな意味でフォーカスされているので、気持ち的にオフでも仕事ができるという程よさがあるように思えます。

:オンオフの使い方も含めて、50歳からもう一回新しいことにチャレンジすることはスゴイなと思いました。ただ、参考にはしにくいですよね(笑)。清さんじゃないとできないし、清さんが生きてきた時代があるけん、できるみたいな。でも、こういう方が近くいるというだけで、夢が持てますよね。

:藤戸くんと二俣くんは同世代だから切磋琢磨じゃないですけど、近くにいる人同士で一緒に上がっていけばいいと思うし、その輪が広がっていったら、街としても面白くなっていくのではないかなと思っています。






清永浩文 Hirofumi Kiyonaga
1967年、大分県生まれ。SOPH. CO.,LTD.代表取締役社長。1998年にブランド〈SOPH.〉を(2002年にSOPHNET.へ改名)、翌99年に〈F.C.Real Bristol〉を立ち上げる。2008年にuniform experimentをスタートするなどファッションシーンを牽引し続けている。2017年4月、福岡市・赤坂に『KIYONAGA&CO.』をオープン。



KIYONAGA&CO.
住所:福岡市中央区赤坂1-12-6
TEL:092-791-5100
営業時間:12:00〜20:00
定休日:不定
http://www.kiyonagaandco.com/

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