PERFECT COMBINATION

新しいものが生まれる場所

Photographs,Words,Edit by Masafumi Tada

2017年の秋にシンガポールでスタートした36。これは、鈴懸とWINE&SWEETS tsumonsによる試みで、イベントが開催される国や会場のイメージに合わせて菓子を“ライブ”で届けるというもの。36が誕生するまでの話については、こちらの過去記事を読んで頂けたらと思うが、シンガポールでのローンチ以降は、国内で開催されるイベントに参加したり、来日する国賓へのおもてなしとして提供したりと活動を続けてきた。ことし11月8日から、アメリカ・ニューヨークで開催された『YOKAN COLLECTION 2019』にて2年ぶりとなる海外での“ライブ”を実施。今回のFEATUREは、イベント前日に在ニューヨーク日本大使館・公邸で催されたレセプションパーティーの模様も含めた3日間を振り返る。




トゥルンとクラッシュした羊羹を飲んでもらう

9月上旬、まずは今回のニューヨークで開かれる『YOKAN COLLECTION 2019』に、どのようなスタイルでいくのかを決めるところから始まった。ただ、難航することはなく、すぐに決まった。それは、以前よりミーティング時にアイデアとして出ていた“カクテルのように飲んでもらう”というスタイルで、実施するには一番良い場所だと判断したからだ。さっそく、試作へと取りかかり水羊羹を一口で飲んでもらえるよう柔らかく作ったものをグラスに取り分け、ほうじ茶やフレッシュジュース、アルコールといったドリンクをプラスする。当初は水羊羹に対してドリンクの量を少ない設定にしていたが、より一口で飲めるようにした方が良いので水羊羹よりドリンクの量を多くしてみてはと、鈴懸の中岡社長からのアドバイスで量を逆転させてみたところ、水羊羹のトゥルンとした食感を残したまま一口で飲むことができ、一杯あたりに対する分量が確定した。


IMG_1614 通常より柔らかく仕上げた抹茶の水羊羹



その土地の風土や季節感を楽しめるテクスチャー

36がテーマとしているライブには、開催する場所の風土や、その時の季節感を取り入れることも大切にしている。ニューヨークへ出発する前に基本的な素材と組み合わせを決め、あとは現地で調達してみようということで、抹茶、栗、黒糖の3つの羊羹と、佐賀県・嬉野のほうじ茶、ニューヨーク・ブルックリンにあるキングスカウンティのバーボン、リキュールの一つシャルトリューズ、シャンパン、アメリカ発祥の炭酸飲料とされるルートビア、オレンジジュースがラインナップ。

IMG_0877 オレンジジュースは現地のスーパーで購入




_DAY1

11月7日(木)の朝、ニューヨークへ到着し、その足でスーパーへ行きオレンジジュースを、リカーショップでシャンパンを仕入れ、在ニューヨーク日本大使館・公邸へ。会場や厨房の一部を拝借し三種の水羊羹を作るなど、レセプションが始まるギリギリまで準備に追われ、この日は以下のメニューリストにあるよう2つのカクテル(アルコール有り)と、1つのモクテル(ノンアルコール)を用意し開催を迎えた。

IMG_1665 会場内の調理環境で抹茶の水羊羹を作る様子


IMG_1705 53: KOKUTO YOKAN、 YUZU、 ROASTED GREEN TEA、RICE POPCORN
(黒糖の水羊羹、ほうじ茶、柚子、ライスポップコーンシナモン風味)


IMG_1709 54: MATCHAYOKAN、ORANGE JUICE 、YUZU CHAMPAGNE、CHARTREUSE
(抹茶の水羊羹、オレンジジュース、柚子、シャンパン、シャルトリューズ)


IMG_1707 55: CHESTNUTYOKAN 、ROASTED GREEN TEA、YUZU 、BOURBON[KINGS COUNTY](栗の水羊羹、ほうじ茶、柚子、バーボン)


レセプションが始まり、会場へと沢山のゲストがウエルカムドリンクを手に入ってきた。そのため、最初は36のブースの前を素通りしていく方も多かったが、パーティが進むにつれて人が集まりはじめた。日本の方には「一口で飲むように召し上がってください」、現地の方には「like a one shot!」というように仕草を加えて、説明し試飲してもらう。「美味しい」「amazing!」といった一言の感想もあれば、「口の中で味が変化していく、バーボンと羊羹のマリアージュが楽しい」といった感じたことを具体的に話してくれる方もいて、明日からのイベントを前に手応えを感じた。


IMG_1759 IMG_1756 IMG_1739 レセプションパーティの模様



スイーツデザインを担当するWINE&SWEETS tsumons 香月さんは、この時のことを以下のように振り返っていた。「タキシードに蝶ネクタイのジェントルマンたちがカクテルに仕上げたスイーツを『cheers』といって乾杯してワンショットでクールに飲み干して、『これおいしいんだぜ』ってほかのかたをつれてきてくださる。おすすめのものを『why not』っていってたのしんでくださる男気。その姿はドラマであれほどにまで見て憧れつづけたニューヨークのどんなワンシーンよりもかっこよすぎて心につきささりました 」〈@tsumons のinstagramより抜粋〉 。



_DAY2

11月8日(金)、『YOKAN COLLECTION 2019』の初日。会場となるPROJECT FARMHOUSEを下見したあと、すぐに周辺を散策。目の前にあるUNION SQUEAでは、週末恒例のファーマーズマーケットが開催されていた。この日の最高気温は6,7度とキーンと張り詰めたような寒さで、マーケット内で売られていた温かいアップルサイダーに目が止まった。試しにと購入し飲んだところ、「おいしいね!」ということで、地元感もあるので本日のメニューに加えてみようとなり、家庭で楽しむように販売されているボトルに入った原液を購入。次に向かったのは、全米で展開しているグロサリーストアのWHOLE FOODS MARKETへ。ここでは、有機栽培のイチゴやラズベリー、洋ナシのサイダーを選んだ。この日の組み合わせは、以下のとおりで当初の予定にはない内容となった。


IMG_0867のコピー ファーマーズマーケットでアップルサイダーを購入


IMG_0875 WHOLE FOODS MARKETでは果物や野菜売り場をチェック



IMG_1804 56: CHESTNUTYOKAN、BLACKBERRY、BLACKCURRANT
(栗の水羊羹、ブラックベリー、カシスジュース)


IMG_1805 57: KOKUTOYOKAN、HOTAPPLECIDER、BOURBON[KINGS COUNTY](黒糖の水羊羹、アップルサイダー、バーボン)


IMG_1803 58: MATCHAYOKAN、STRAWBERRY、RASPBERRY、PEARCIDER 、CHARTREUSE(抹茶の水羊羹、イチゴ、ラズベリー、洋ナシサイダー、シャルトリューズ)



『YOKAN COLLECTION 2019』が幕を開け、会場に人が入り始める。この日は、ロイターをはじめ様々なメディア関係者が訪れ取材や撮影が行われる中、36のデモンストレーションが始まった。まず、香月さんが英語で36の説明を行い、壁に映しだされたWEBサイトにも注目が集まっていた。その後、鈴懸の職人・岩本さんによる飲み方のお手本が披露され、ゲストが次々と飲んでいく。中には、「まさかのキングスカウンティのバーボンと羊羹という組み合わせに驚いた」と、味や食感だけではなく組み合わせについての感想も聞くことができた。

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会場やデモンストレーションの雰囲気



「スイーツデザイナーとして、その土地の空気を感じながら地元の素材を使い即興でアレンジしていくほど楽しいことはないのかもしれません。今日のニューヨークは、日本の大晦日の夜ようにキンキンに冷えていました。ファーマーズマーケットのホットアップルサイダーは身体に染み入るおいしさ。『そうだ!今日はニューヨーク近郊のリンゴ農家さんによるアップルサイダーのキレのある酸味にブルックリンのバーボンをホットスタイルで合わせて黒糖羊羹を浮かべよう!』と思いました。それから、ニューヨークは何かと何かの組み合わせで新しいものが生まれる場所。例えば、クロワッサンとドーナツのクロナッツとか。バーボンとアップルサイダーを組み合わせるという、誰もやっていないことをやるところに称賛したり、面白がったりするというか。美味しい、美味しくないは別なところもあるかも」と香月さんが話してくれた。



_DAY3

11月9日(土)、『YOKAN COLLECTION 2019』の2日目にして、会場でのデモンストレーションなどは最終日となる。この日は、ライセンスの関係でアルコールが使用できないので、昨日から継続のアップルサイダーのほか、WHOLE FOODS MARKETで見つけた、ラズベリーやミント、ココナッツジュース、ジンジャーエール、ルートビアを使用することに。この日の来場者は週末ということもあり家族連れなども多く、早い時間から会場は埋め尽くされていた。2回に渡って行われた36のデモンストレーションは好評で、各20分ほどで準備していたそれぞれ90杯分がなくなってしまった。

IMG_1846 IMG_1847 ミントとラズベリーを撹拌してジンジャーエールと合わせる


IMG_1856 IMG_1857 IMG_1860 1日目と同様に飲み方をレクチャーしたあと、デモンストレーションを開始



IMG_1867 59:CHESTNUTYOKAN、 BLUEBERRY、 BLACKCURRANT、 COCOFUSION(栗の水羊羹、ブルーベリー、カシス、ココナッツジュース)


IMG_1866 60: KOKUTOYOKAN、HOTAPPLECIDER、ROOTBEER
(黒糖の水羊羹、アップルサイダー、ルートビア、ライスポップコーンシナモン風味)


IMG_1868 61: MATCHAYOKAN、STRAWBERRY、RASPBERRY、MINT POMEGRANATE HIBISCUS GINGERALE(抹茶の水羊羹、イチゴ、ラズベリー、ミント、ハイビスカスとザクロのジンジャーエール)


最後に今回のニューヨークのライブを振り返ってもらった

WINE&SWEETS tsumons 香月友紀さん「本日(最終日)は、なくなってしまうのは早かったけど、アルコールを使用していないのでお客さんのリアクションが違いました。アルコールを使った時は、香りが立つので一瞬で心をつかんでいるように感じます。基本の構成は同じなんですが、ミントにするか、シャルトリューズにするかで、伝わり方が変わります。ただ、今日はお子さんも多かったので、ノンアルコールで楽しんでもらえたのは良かったと思いますし、どちらも作ることができるというのは強いのかなと思いました」

IMG_1843 写真左より鈴懸の岡村さん、岩本さん、tsumons 香月さん


鈴懸の菓子職人 岩本成将さん「今回、それぞれの水羊羹を飲むように味わってもらうということで、喉越しが良くなるように、糖度、水分、寒天による凝固率を調整し、通常の水羊羹よりもテクスチャーが変わるようにしています。3日間、お客さんの反応を目の前で見ることができて良かったです」

香月さん「ひとは自分の国や街の味わいや香りに親しみを感じるものだと思うのです。今回はできるだけ現地のものを取り入れることができたので良い反応を頂けたのが、いままでのどの国よりもビシビシ伝わってきました。あと、ニューヨークという街は、ライブを受け入れてくれる感じがします。ただ、並べて食べてもらうだけではなく、パフォーマンスがあることで、よりエモーシャルになるのではと思います。36のチームのみんなで街を歩いていた時に、アイスホッケーのゲームが終わってマディソンスクエアガーデンから出てきた、ニューヨーク・レンジャーズのユニフォームを着た沢山のファンの方を見て思いました。何かのアクションに対して、それが良かったらオーディンエンスは反応するんでしょうね」






YOKAN COLLECTION 2019 New York City
Date:8to9 November 2019
Venue:PROJECT FARMHOUSE
76 East 13th Street New York NY 1003
(Near Union Square)
URL:https://yokancollection.com/


36
http://an-36.com/
https://www.instagram.com/an____36/
https://www.facebook.com/an36an36/


株式会社 鈴懸
http://www.suzukake.co.jp


WINE&SWEETS tsumons
Sweets Designer/Patissiere/Sommeliere
http://wine-sweets.com

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