thought 2021

無理がないから継続していける

Photographs by Koji Maeda,Takumi Matsuo(Interview) / Words,Edit by Masafumi Tada

昨年は開催が見送られ2年ぶりの開催となる合同展示会thought。主に九州で活動するアパレルや雑貨のブランドが集まり、プレスやバイヤーに向けた「展示会」と、誰もが入場でき買物を楽しめる「マーケット」を行うという構成は変わっていないものの、生活をはじめ社会活動などに大きな変化があった、この一年。

今回のFEATUREは、実行委員会より藤戸 剛さん、林 博之さんには自身の経験と視点から、一年を振り返ってもらい合同展示会への影響や、九州で開催することについてを、マーケットのフードブースのディレクションを担当した熊本を拠点に活動する佐藤かつあきさんには、出店するお店の話や熊本の災害復興の状況を聞かせてもらった内容をお届けします。



thought_2019_027のコピー 2019年に開催した時の様子


CENTRAL_(以下 C):いわゆるコロナ禍における国内の合同展示会には、どのような影響や変化があったのでしょうか?

藤戸 剛さん(以下 藤):昨年(2020年)、自分は国内の合同展示会には出てなかったんですけど、林さんは出ていましたよね?

林 博之さん(以下 林):最初に、単独の展示会に比べると、合同展示会というのは人を集客するためのイベントであって、いまの世の中の背景的にはどう考えても開催しづらいですよね。ただ、これを生業としてご飯を食べている人たちにとっては、開催されないと始まらないといいますか、特にアパレルは袖をとおしてみないと分からないみたいなところもありますよね。

来場者の選択は自由なので、”感染リスクを避けるために行かない”、”WEB展示会を見て発注する”など、それはそれで正解なのですが、どうしても商品を触ってみたいという方のためにもメーカー側はドアを開けておかないと商売にならないので、そういう職業側に携わっている者としては感染対策をしながら続けていかなければいけないことだと思っています。ただ、現状で言うと僕が出展した東京の合同展示会では来場者数が前年に比べ40%くらいで、もらった名刺を見てみると、ほぼ関東圏ばかりで、大阪、名古屋の方がパラパラで、それ以外の地域の方はほとんどいなかった印象でした。


藤:昨年9月に東京で行われた別の合同展示会に出展した人から来場者数が減ってエグかったということは聞きましたが、それに比べると林さんが出た合同展示会の方が来場者数は、まだよかったとも聞きました。

林:自分は、その合同展示会に出展したのが初めてだったということもあって、来場者からは初ネタ的にも映ったのかブースに足をとめてくれる方も多く、よい商談もできたので、個人的には満足だったのですが、最終日に運営の方より「すみません、今回は来場者数が少なく例年40%くらいで…」て言うから、例年はどれくらい来ているんだろうと思いました。

ただ、メーカーによっては出展費を支払っているので、出展をキャンセルできずに無人のブースで名刺だけを置いてあるところもありました。そこには出展する会社側の判断もあるでしょうし、個人の作家さんなどで疾患のある方は出たくても出れないなど、さまざまな事情があるでしょうね。だから、展示会に限ったことではないですが開催のしづらさは純粋にありますよね。


thought21 写真左からthought実行委員会の林 博之さん、藤戸 剛さん


C:今回、2年ぶりの開催となりますが、福岡・九州で開催できることについて聞かせてください。

藤:自分たちが運営する合同展示会thoughtは、2020年は開催を見送りましたが、今回、太宰府天満宮で開催できるというのは稀なパターンですよね。この規模感で開催でき、出展社(者)も集って、太宰府天満宮が場所を貸してくれるという状況が揃ったのは有り難いですね。

林:人が集まりやすい中央(東京)で開催がするがゆえに、人の目もあるでしょうし、出展社(者)の意見も様々でしょうし、本来、”物流といえば東京でしょう”と言いたいところ開催が一番しづらくなっているかもですね。自分たちは、九州発信で、九州で開催するというところに意味があると思って、これまでやってきていますし、合同展示会がどうのというよりも、地方発信で全国に向けてやっていくことはやりやすさがあったりして、チャンスなのかもと思います。

藤:昨年、thoughtはできませんでしたが、同じ運営メンバーで行っているBLEND MARKETを昨秋に開催できたので、感染対策をしながらの実施にも手応えがあり、今回の開催にもつながったというところもあります。



C:福岡・九州で開催することでの利点などがあれば教えてください。

藤:九州から、出展料を払って、感染リスクなどを背負って東京へ出張して、リターンが薄いとなるとバランスが悪くなってしまうので、九州で活動する人にとってthoughtはバランスはいいいのかもしれないですね。

林:出展料も東京の半分ですし、出展の約7割は九州勢なので車で来れるので、サンプルや商品の搬入コストも抑えられ、宿泊せずに帰ろうと思えば帰ることもできますしね。とにかく余計な経費がかからず、最後にマーケットによる物販もできるので売上を立てることも可能です。エキシビジョンで卸の新規取引先ができ、マーケットで出展費用を賄うほど売上げることができれば理想ですよね。

あと、福岡や熊本のショップなどのバイヤーさんは、朝一から展示会にくれば、お昼からお店も開けることもできますよね。東京の展示会となると経費の都合でショップスタッフを連れて行けないこともありますが、車で一緒に行くことができるのでスタッフの意見を聞きながら商品を見ることもできるんです。聞いたことのある話で面白かったのが、その会場までの道中でふだん売り場ではしない話なんかもでき、コミュニケーションの場にもなっているようですよ。

藤:会場の一つの文書館は、伝統的な日本建築なのですが、すべて窓を取り外すことができるんですよね。なので換気の面でいくと屋根のついた外のような状況になりますし、靴を脱いでから入るというのもたまたまではありますが、ここにきて会場の良さにも恵まれているかと思います。福岡の都心ではない、少し離れた場所というのもよかったかもです。
fujitosan ただ、そもそも自分たちはこういう緊急事を想定してthoughtを始めたわけではなく、中央(東京)に集まり過ぎている情報と、みんなの考え方のようなものを地方に分散させてもいいのではというとこからで、中央もあるけれども、地方でやっている人の場を作ろうと始めていて、これまで長崎県の波佐見、福岡の大宰府という自分たちの思う“土地に力”があるところで開催させてもらってきたので、場所の利点などは後付けになりますよね。

林:自分たちは展示会屋さんではなく、いち出展者であって、根本には自分のブランドを成功させるために九州エリアの人にしっかり見てもらいたいですし、自分が九州にいるのに”東京の展示会に九州の方に来てください”というのではなくて、九州で個別に展示会をやっているのあれば、たまには”みんなで集まってやろうよ”みたいなところの考え方もあって、そこに無理がないのも継続できるパワーなのかもしれないですね。


thought_2019_068のコピー 窓を外すことができ開放的な文書館。写真は2019年開催時のもの



C:今回の出展社・者の状況を聞かせください。

林:今回は約65ブランドが出展し、そのうち新規の出展は3割くらいです。意外だったのが、今までの中で埋まるのが一番早かったので驚きました。こういう状況だから、皆さんどうかなと思っていたのですが。
hayashisan1 開催しずらい空気感の中、自分たちがやろうと言ったことで、後押しじゃないですけど参加しやすい感じがあったかもですし、皆さんもまたやらないのかなぁと思っていたところで開催すると聞いて乗りやすかったというのもあるかもですね。しかも、マーケットを2日にすることにしたので、攻めてるなと思われているかもです(笑)。

藤:自分は、海外の展示会に出展していますが、ここ2回ほどはオンラインのみとなっています。自分が直接行って話をしていないので、オーダーしてくれた理由が正確に分からないのでオーダーが入っても、入らなくても不安になるんですよね。やはりフィジカルの展示会はほしいですね。自分の商品が良かった時の反応はもちろん、悪かった時も何が悪かったのか、直接話すことで分かるので。


C:先ほどマーケットの話がありましたが、今回は2日間になったのですね。

林:そう、今まで1日だけ開催していたマーケットが2日間になりました。今っぽく言えば、分散させることもできますし、土日の開催となったので、これまで土曜日に来れなかった方にも来てもらえたらと思います。最近、僕らの業界はニコニコできている人がいないので、こういう場で売ることによって笑顔になりたいですよね。

藤:マーケットは、まず楽しさがありますよね。昨秋のBLEND MARKETの反応も見つつ2日間にしたというところもあります。先の話になりますが、BtoBとかBtoCみたいな、展示会とマーケットの境が世界的にもなくなってきているので、それぞれ2日間にすることで、その感じを表現できたらなと。作り手もちゃんと説明して、直接売ることができる力が必要なのではないかなと思うんです。自分のやりたいことや作ったものを言語化して。”自分は作るだけなのであとはよろしく”的なことは厳しくなってくると思うんです。それから、お客さんにも、作り手にたくさん質問して楽しんでもらいたいですね。


林:あと、経験の少ない出店者にとっては、接客の仕方など一つをとっても、いろんな面で勉強になると思います。あのブランドが売れているということは、そういうことかみたいな。そもそも、そのブランドのファンが、そのブランドを目掛けて会場まで来てくれるというのも見せつけられますよね。合同展示会の屋号にだけ乗っかっていても、そういうバズリ方みたいなのはないですからね。そういう力のあるブランドは、自分の地元に帰ってから、ちゃんとブランディングをやっていますよね。


C:マーケットといえば恒例となったフードブースも楽しみですね。今回は、どのような感じでしょうか?

藤:マーケットの日にフードブースを屋外スペースにて出店してもらっているんですけど、これまで開催地や福岡のお店に出てもらっていました。今回は、昨年7月の豪雨や4年前の地震など熊本で災害が続いている中、先日熊本県の人吉へ行く機会があって、その状況を目の当たりにして何かできないかなと思い、無料で出店してもらうのはどうかという考えが出てきたので、実行委員に共有し賛同してもらい、熊本の方に出店してもらうことになりました。ただ、自分たちが、お店の方へお声かけするよりも、近くにいる人の方からが良いかと思ったので、”熊本のエース”佐藤かつあきにお願いして、ショップのセレクトやお声かけを担当してもらうことになりました。

林:彼は、以前にthoughtに出展してくれていまして、その時は熊本地震の災害復興をクリエイティブの力で呼びかけるBRIDGE KUMAMOTOとしての出展で、そのブランド自体が地元を応援するものでしたから、こんなに適した人はいないなと。

藤:正直、人が集まるイベントで食がないと人も来ないですからね。ジャンル的に言うと、食に関するテーマでないと人は動かなくなっていると思っていて、生活の中で食が先端にあって、自分たちのやっているアパレルは末端だと思うんです。その途中に器など生活雑貨みたいなのでがあって、thoughtは、生活雑貨からアパレルまでカバーできている合同展示会とマーケットなので、やはりてっぺんは食なので、そこはちゃんとテーマ性をもって提案したいです。

thought_2019_162 写真は会場の一つの旧東屋とフードブース


C:そのフードブースについて、リモートで佐藤かつあきさんに話を伺いました。今回、熊本で自然災害にあった方々のマーケット出店を佐藤さんがディレクションすることになった経緯を教えてください。

佐藤かつあきさん(以下 佐):thoughtには、過去に熊本地震の復興支援ということで、BRIDGE KUMAMOTOとして出展したことがありました。また、ブランディングをお手伝いしている熊本県・南関のヤマチクさんの出展もお手伝いをしたこともあり、thoughtとは、そうした接点があったんです。私が代表理事をつとめるBRIDGE KUMAMOTOが、2020(令和2)年7月豪雨の復興支援も行っていたこともあって、thought実行委員の方から今回のご連絡をいただきました。


C:出店するお店について具体的に聞かせてください。

佐:飲食店についてすごい知っているわけでもなかったので、熊本の食に詳しい編集者に聞いて、熊本県内の広域にわたって人気店や有名店をセレクトしました。また、人吉など豪雨被害の大きかった地域のお店の方にも声をかけさせて頂きました。土日、それぞれ4店が出店するのですが、ジャンルの偏りもなく集まって良かったです。

4月17日(土)出店
Cafe rosy+〈コーヒー・球磨郡多良木町〉
カオニャット〈バインミー・人吉市下原田町〉
うさぎ農園〈パニーニ・合志市野々島〉
アゲパンヤ。〈アゲパン・熊本市内〉

4月18日(日)出店
エンデレアコーヒー〈コーヒー・八代市横手新町〉
ココバインミー〈バインミー・熊本市内〉
popolus food shop〈チキン・ホットドック・菊池郡大津町〉
トルチェ〈パン・熊本市内〉


C:佐藤さんの視点で、復興の状況はどのように写っているのでしょうか?
2016年の熊本地震について

佐:先日、新阿蘇大橋が開通して、大きなインフラの復旧は完了したように思います。一方で、まだ復旧道半ばの益城町や南阿蘇鉄道、熊本城など、かなりの時間を要するものもあります。仮設住宅に入居されている方も600名ほどいらっしゃいます。身近なところですと、私の事務所のある熊本市内・新町というところで、もともと家やお店があったところが取り壊されコインパーキングが増えている印象です。中には若い方がリノベして利用しているところもありますが。

164609744_498117154549326_2603124882001709682_n 佐藤かつあきさん

C:2020年7月の熊本県を中心とし九州など各地で発生した豪雨による災害について

佐:人吉の特に球磨川沿いは、未だ時間が止まっているかのような惨状です。水害のパワーと恐ろしさを感じられます。コロナの影響で県外からの業者さんが入りにくいといった話や、工事をするまでに2年待ちといった話も聞きます。民間団体としては、地元の経済復興とか、地域おこしのようなもののお手伝いができればと思っていまして、くま川鉄道のオリジナルアイテムの制作や販売、道の駅 人吉の商品開発なども行っています。



C:thoughtのマーケットという場を通じて、伝えたいことがあれば聞かせてください

佐:いま、地方がとても面白くなってきていると感じています。それも、地方の中でもマイナーな地域に面白い人やモノが増えている印象を持っています。その一方で、毎年どこかの地域で局所的に自然災害が起きています。そんな時に、thoughtのようなマーケットで、地域を超えた人と人とのつながりができておくと、発災後に大きな力になります。たくさんの人たちが、モノや食を通じて、つながりを持ってほしいなと思います。






thought EXHIBITION AND MARKET 2021
会場:文書館、旧東屋
住所:福岡県太宰府市宰府4-7-1 太宰府天満宮内

EXHIBITION
4/15thu 、16fri
時間:10:00 〜18:00
※バイヤー及び関係者を対象とした展示会。
終日、一般の方の来場はできません。

MARKET
4/17sat、18sun
時間:10:00~17:00
※どなたでも来場可能

問い合わせ:info@thght.jp(thought実行委員会)
HP: http://www.thght.jp
FACEBOOK: https://www.facebook.com/thghtjp
INSTAGRAM: https://www.instagram.com/thoughtkyushu/

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