DAYS_

Mitsutoshi&Tomoko Takesue

クールとはけっしてサイレントと同義語ではないはずだ。

IMG_5653ストラスブールは、その昔ドイツとフランスが幾度となく領有権を争ったアルザス地方の中心にある街だ。そのため、今はフランス領だけれど、ドイツ文化が色濃く残っている。EUの議会や裁判所があるのも、ここがヨーロッパの象徴的な場所とみなされているからだろう。
この街出身で、以前から気になっているアーティストがトミー・ウンゲラー。絵本作家と風刺、もしくはエロティックな画家という相反する顔を持っている風変わりな作家である。彼の美術館があるということで訪れてみた。
小ぶりな邸宅の中には彼の作品がギッシリ。新聞や雑誌に掲載されたカリカチュアや、ストラスブールの象徴である大聖堂をパロディ化した一連の作品、一見サヴィニャック?と思ってしまうポスターなど、驚くほど多彩な作風は、同一人物が描いたとはとても思えないほど。しかも、どのスタイルにも画家としての確かな才気がほとばしっている。ある部屋では、ヨーロッパの美術館でよく見る光景なのだが、小学生くらいの生徒たちが床に座って、チューターの話を聴きながら絵を熱心に見ている。地下に降りると、カエルをモチーフにしたかなりエロティックな連作がズラーリ。さすがに、こちらでは授業は行われてはいなかったが。
日本に戻り、トミー・ウンゲラーのことを少し調べてみると1931年生まれで現在84歳。絵が好きでデザイン学校に行くが放校となり、第二次世界大戦でドイツ領になってしまった故郷を離れてヨーロッパを放浪し、1956年アメリカへ渡り子供向け絵本で一躍脚光を浴びる。もともとボヘミアンだったのが、アメリカでビートニク旋風に出会い、その後カナダなどでヒッピー的生活を経た「筋金入りの反体制のヒト」に成長していったのだと、勝手に想像した。
そんな彼にとって、戦争や差別を激しく、そしてユーモラスに告発することは、子供向けには絵本であり、大人にはカリカチュアであるだろう。そのうえ、性を題材にすることでタブーへの挑戦もいとわない姿勢を持っているというわけだからゾクゾクする。つまりパンクな爺さまというわけだ。ところで、パンクに続くような新しいアティチュードを持つ「怒れる若者たち」はどこへ行ってしまったのだろう。アメリカ西海岸では「クール!」、パリでは「クウォール!」という言葉を連発し、お互いのセンスやスタイルを愛でる言葉はよく耳にするのだけれど…。まるで、社会的もしくは政治的な態度を表明することが「センスが悪いこと」と勘違いしているかのようだ。クールとはけっしてサイレントと同義語ではないはずだ。

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