DAYS_ Mitsutoshi&Tomoko Takesue バトンはちゃんと渡された! January 05, 2016 / たとえば、アイリーン・グレイのE1027がエーゲ海のレスボス島あたりをクルーズするヨットだとすると、そこから階段を20段も登ったところにコルビュジェが建てたCABANONは、さしずめ筏(いかだ)といったところか。3.66×3.66m、約4坪という丸太小屋は、彼の建築理論に従った、人間が生活する最少のスペースでしかない。日本風に言えば約8帖ひと間。そこにシングルベッド1+α、テーブル+スツール、ワードローブ、トイレ、洗面台を配置と聞くといかにも狭いようだが、中に入ってみると圧迫感がない。というか、なんだか落ち着く。夏の休暇小屋という前提があるとはいえ、生きてゆく上で必要な空間は、案外これくらいのほうがいいのかもしれない。人が、限られた時間をこの地球で過ごすことは、神が与え給うた短い休暇期間なのだから。 この小屋は、となりの「ひとで軒」というレストランにくっついて建っている。たしか、コルビュジェが、レストランの店主からの依頼で建てた、子どもたちのための休暇施設”Les Unites De Camoing” の返礼として、お金の代わりにと譲り受けたのがとなりの土地だったはず。しかし、くっつけてしまったのにはわけがある。この必要で十分な設備を備えた小屋に唯一欠けていたのが台所だったからである。なんと、外に出なくても行き来ができるようにひそかに内部ドアまでこしらえていたのだ! コルビュジェは、小屋に滞在中の食事は朝、昼、晩ともに「ひとで軒」で済ませていたらしい。新鮮な海鮮料理に舌鼓を打っていたに違いない。それも、思いっきり庶民的な味の。ほぼ当時のままと思しき食堂は、今でも当時の内装としつらえを残していてなんだか生々しい。魚やタコ、ひとでの絵が描かれたバーカウンターの向こうには白いランニングシャツに黒のベレー帽を被った「ひとで軒」のオヤジがタバコを吹かしている。外のテラスではコルビュジェと妻のイヴォンヌが、喧嘩したはずのアイリーン・グレイとバドヴィッチらが、親しげに魚のスープでランチの最中だ。なんとイキテルウチガハナの場所だったことか!そこで交わされた他愛もない話の中で、どれだけのインスピレーションが交換されたのだろう?今にも彼らのさざめきが聞こえてきそうだ。 そんな一コマを物語る写真が残されている。コルビュジェの横で真っ黒に日焼けしている少年は「ひとで軒」のオヤジの息子ロベール。じつは、いまぼくらがE1027やCABANON、それに「ひとで軒」とLes Unites De Camoingまで見学できるのは、成長した彼の功績といっていい。世界中から、わざわざやって来るもの好きな人達のためにこの場所を提供し,傷んでしまった古い建物を少しづつ修復する作業へと行政を動かしたのは、他ならぬこの笑顔の少年。つまり、バトンはちゃんと渡された、というわけだ。現在4つの建物は、ドネーションや入場料、書籍の販売などの収入や自治体からの補助などをもとに、一括して財団によって運営されている。世界遺産には登録されていない。幸いなるかな! SHARE : Mitsutoshi&Tomoko Takesue [武末 充敏] organ 男店主。1949年、 博多生まれ。70 年代、「葡萄畑」というバンドでアルバム発表&東京その日暮らし。80年代、福岡にもどり「タワーレコードKBC」に勤務。”家具の音楽”を目指し「フラットフェイス」というユニットでMIDIよりレコード発売。バブル崩壊後、何はなくとも我が家があるさ、と自宅にて「organ」 なるインテリア・ショップをはじめる。福岡在住のデザイナーと”靴のままの生活”を推進するENOUGHや、ZINEなどを試行。 [武末 朋子] organ女店主。1974年、山口県生まれ。短大卒業後、興味のおもむくまま家具屋や映画館で働いた後、1999年頃から「organ」を手伝いはじめる。有名無名を問わず、ボーダーレスで人を惹きつけるものを見つける為に、国内外を旅するのがモットー。最近は「KO」や「Monica Castiglioni」といったジュエリーブランドの紹介にも力を注ぐ。 organ-online.com CATEGORY_ SELECT ARCHIVES_ MONTHLY 2021年2月 2020年3月 2020年1月 2019年4月 2018年3月 2018年1月 2017年12月 2017年11月 2016年9月 2016年6月 2016年4月 2016年3月 2016年2月 2016年1月 2015年12月 2015年11月 2015年10月 2015年9月 2015年7月 2015年6月 2015年3月 2015年1月 2014年12月 PEOPLE_ SELECT Central Editors Eiichi Izumi Go Fujito Hiroshi Mizusaki Hiroto Shin Hitoshi Takekiyo Kaoru Shimizu Katsuya Sugi Kenichiro Fujii Kenjiro Matsuo Koichi Futatsumata Kyoko Hirosawa Masato Tsukiji Mitsutoshi&Tomoko Takesue Shiho Miyawaki Suguru Oishi Taro Misako Yoichiro Uchida Yuki Katsuki