ETERNALLY UNCHANGING

ずっと変わらない存在

Photographs by Ittoku Kawasaki / Words,Edit by Masafumi Tada

福岡を拠点とし2002年にスタートして、昨年20周年を迎えたアパレルブランド『FUJITO (フジト)』。今回、10周年の際に製作したシュースツールと同様にテーマは「洋服にまつわる何か」という一言で、FUJITOの藤戸剛氏より旧知の仲である二俣公一氏へ周年記念のプロダクトを依頼した。その言葉を発端に誕生したのは、見たことのないようなコートハンガー。優しく丸みを帯びた石を台座に、そこからスチールの支柱がスーッとのび、その先端には木を加工した円盤型のヘッドが付いているというもの。一見、オブジェとしても楽しめそうなミニマルな形姿に、コートをかけることができるのかと疑問を持ったが、コートをかけても倒れないように設計されているという不思議なプロダクト。今回のFEATUREは、このコートハンガーについて、製作の背景やデザインをはじめ、物作りを続けるお互いことなどを二俣氏のアトリエにて聞かせてもらい、さまざまな角度から迫ってみた。

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遡ること10年ほど前、二俣氏がデザインを担当しFUJITOのアニバーサリーアイテムとして生まれた『SHOE STOOL』。直営店・Directorsで用意した脚数は完売し、その後、ロンドンのデザイン誌・Wallpaperに掲載され、Wallpaper Design Awards 2014にも最終ノミネートされた。そして、イタリアの老舗家具メーカー・OPINION CIATTI(オピニオン チアッティ)からのオファーにより日本を含む世界市場へと再リリース。現在は『GO』という名称でE&Yより販売されいる。その時のことを振り返るように自然と二人の話が始まった。

藤戸氏:最初に思いたったのは、10周年であのシュースツールをやっていたから、何もしないわけにはいかんかなと。世界を旅したからね、シュースツールは。そういえば、もう20周年やなというところで二俣へ話を持ちかけました。

二俣氏:本当、その流れがあったもんね。今はE&Yから販売されていますが、 いまだに様々な方に購入してもらえていますし。

藤戸氏:普遍的なものであったって話よね。

二俣氏:そうだね。普遍的なものをと思って作ったわけではないんですけど、やりたいように好きなように作ったという感じだったので。それが受け入れられたというのも新鮮でした。

藤戸氏:かっ飛ばしてたもんね。で、二俣が言っていたと思うんですけど、 この時の作品に対するデザインのあり方みたいなものが、その後にこの手の素材を扱う何か軸みたいのが見えたみたいな、そんな話があったのを覚えています。

二俣氏:そう。そもそも、自分が部品とかパーツ、ディテールに興味があるから、最初からこの造形をこんな風にしたいというより、必要な部品を組み合わせて積み上げていった結果がこうなったという状況が面白いと気づきました。もちろん、最後のフォルムも考えながらではありますが。部品がどう組み合わさっているかということであって、他のプロダクトのデザインもそういうものが多いかもしれません。

_DSC2464_DSC2540 SHOE STOOL


_DSC2507 二俣公一氏(写真・左)、藤戸剛氏(同・右)



2021年初頭、二俣氏へ今回のデザインを依頼した際の話の中で「何か小さなものでもいいよね。例えばフックとか」と藤戸氏のちょっとした言葉から、壁付のコートフックの方向で考えを進めていっていたところ、生産のロット数やコスト、購入された人が簡単に壁に取り付けができるのかといった問題がいくつか浮上し、時間だけが過ぎていったという。

藤戸氏:そう、特に壁への取り付け方の問題を気にしだすと、どうかなってなり少し止まってたんです。ちょっと一回整理しようと。

二俣氏:2021年の年末ごろじゃないかな、壁につけるフックだと難しいんじゃないかみたいな話をしていて、じゃあ置くタイプでとなった時に、剛が石を使いたいみたいなことを言ったのがスタートじゃないかと。

藤戸氏:二俣の石を使ったプロダクトを見たことなかったというのがあって、建築の方では内装で、床材、壁材でというのはあると思うんですけど、なんかプロダクトとして、どうなん?みたいな話をしましたね。

二俣氏:FUJITOと、自然物とか石とか、確かに合うなというか、そのフィーリングはいいなと思い、石を取り入れてみようと預かりました。

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2022年の秋頃には床置きコートハンガーとしての形姿が定まり、今年にかけて試作へと進んでいく。「石」を使用することになったところから、このデザインが生まれるに至った経緯と、各パーツの機能や特徴を聞かせてもらった。

二俣氏:コートハンガーに石をどう使うかなんですけど、石は重いから、その重さを利用した方がいいんじゃないかと最初に思いました。あと、置く地面から離していくと、石って難しいじゃないですか。重たいし、割れたり、破損したりとか。だから、やはりベースだなと思って、ベースにして置いたら安定感はあるんですけど、逆に石だから転がるというか、その動きがあるっていう風にもできるなと思い、 ゆらゆらと揺れているコートハンガーっていいかもと思ったのがきっかけです。石を使うことは剛からの発案だったので、それをただ使ってみましたっていうより、使う意味がないといけないから、 石が機能する方法を考えた結果という感じです。

_DSC2157 日本国内で加工した黒御影石のベース


二俣氏:あとは支柱とヘッド。高さを上げるためのものと、引っかけるものがいるから、それを一番当たり前にというか、無理なく作れる組み合わせにしました。輸送のことを考えると、上がすごく軽くて、下の石が重たいので破損の可能性も上がると思い、ノックダウンできた方がいいなと、スチールの支柱を分割にするとか、ヘッドの分割というのを考えました。

_DSC2145 分割にした支柱とヘッド。ネジ式で容易に組み立てることができる


二俣氏:もっとミニマムにいくと、全部を金物にするというのもあって、金物ヘッドも考えたりしたんですが、剛とも話をして転倒した時のリスクをどう考えるかとなり、 ヘッドが金物だと転倒した時に、何かにぶつかり破損するなど、 そういった可能性があるんじゃないかということで、木製のヘッドを考えました。形状は、結果的にコートの掛けやすさから円盤型になりました。

_DSC2165 円盤型の木製ヘッド


Video : Koji Maeda Design & Edit : Ryuta Sonoda Music : Yoshifumi Kohi

このイメージムービーを観てもらえると、コートハンガーが倒れずに揺れるという様子がよく分かる。次は、倒れないようにするという開発時の話を聞かせてもらった。

二俣氏:最初、ベースとなる石はもっと丸みのある形状で図面を書いてサンプルを作って、テストしたんですけど、高さに対してコートをかけた時の安定性が取れず、バタンバタンと倒れる動画が送られてきて、実現できないのかなと気持ちが弱くなりそうでした…。

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二俣氏:その後、この丸みの雰囲気は残しながら、 最初の明らかにフラフラと揺れるという雰囲気ではなく、安定した形に見せ揺れそうにないのに揺れるという方向に頭を切り替えて、形状をコントロールして、少しサイズアップもしました。

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二俣氏:形状はいろいろと検討して、 底面のRの角度を何度にするかとか、上部のカーブをどれぐらい取るかといったことは、スタッフと幾つもデータを作りシミュレーションして、これならいけるんじゃないかというところまでやって、二回目のサンプルとテストでは大体うまくいきました。



CENTRAL_:藤戸さんが、最初に完成したサンプルを見た時の印象は?

藤戸氏:見たことがない、わぁっと思いましたよ。 スツールの時もそうだったけど、どこにでもある素材で見たことないものを作るなぁと。めちゃめちゃシンプルだから、この動きがあってのという感じはしましたね。これだけがポーンと置いてあっても、シンプルが故に寂しかったりもするんですけど、 動くってなったら、いきなり可愛いっちゃんね。

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CENTRAL_:藤戸さんはどのうなシーンで使用したいですか?

藤戸氏:和室の家はイメージしたかな。それは、少し二俣にも伝えていました。古民家の玄関先に置くイメージで、先日撮影をしていたら意外に室内で畳の上とかも良かったです。それは写真が上がった後からの相性の話だけど。佇まいとして合うというのが分かったのは、個人的に嬉しかったかな。

二俣氏:確かに、置いてある様がね。石は畳とかと意外に合うんだね。

藤戸氏:合うみたい。天然素材同士で。もちろん、フローリングにも合うっちゃんね。

二俣氏:コートハンガーで、石でとなると、どうしても玄関先の土間みたいなイメージがあったけどね。

藤戸氏:うん、けっこう室内で置くのもいいよ。高すぎないサイズも可愛いと思う。

fujito_20th_0017fujito_20th_0023 Photo:Koji Maeda


CENTRAL_:皆さんへは、どのように使用してもらいたいですか?

藤戸氏:うちからリリースしているので、やっぱりコートや帽子といった洋服にまつわるものをかけてもらうのが一番嬉しいんですけど、いろんなものでいけそうやなという気はしています。 なんもかけんで、オブジェクトとしてもいいと思いますし。

fujito_20th_0025fujito_20th_0022 Photo:Koji Maeda


CENTRAL_:二人は学生時代からの付き合いでもあり、プライベートでの親交もあるかと思いますが、これまで物作りに携わる仕事をしてきたお互いを、どのような存在として感じているのでしょうか?

藤戸氏:そういうのは、一切ないですね。多分、プライベートの関係性の方が勝っとうちゃんね。常にそっちの方が勝ってるから、なんかすごい仕事しとうね。いいやん!以上みたいな。それ以上は、なにも思いつかんというか。

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藤戸氏:2001年くらいかな、一応なんとなく4人で最初に事務所を構えて、 二俣は独立してたけど、俺はまだ前の会社に属しながら夜に行って合流してやってたみたいなところにスタートライン的なものがあるとしたら、当時、こんな感じでやっていきたいよねとそれぞれが言っていたことを、一応、こうやって残って第一線の現場でやれているということに関しては、20周年っていう数字と並べて考えたら、やっぱ 感慨深いものがありますよね。あっ、お互い残ったねと。すごい言葉で表現しにくいんですけど、当時からと違う話にはなってないんじゃないかなとは思います。

二俣氏:そうですね、なにも変わってないですよね。続けてるっていうだけで。剛もそうだし、自分もそうですけど、周りの人がどうだとか関係ないんですよね。そこに対して、自分の気持ちがぐちゃぐちゃとか、イライラとか、奮い立つとか、そういうのがないから、淡々とずっとやっているだけで。何も変わってないんですよ。変わっていないということは、周りが変わっていくんですよね。でも、その中で、剛はずっと変わっていないという存在。 だから、安定剤みたいなところはあると思います。それが、正しい言い方は分からないんですけど、いて当たり前の存在みたいになっています。しょうがないんですけど、家族のような感じですね。

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藤戸氏:距離はね、ちょっと近くなっとうけんね。

二俣氏:だから、いいことがあれば、お互いに良かったねってなるし。さっき剛も言っていましたけど、それ以上もない。

藤戸氏:そうっちゃん、応援することが当たり前になっとうけんが「また頑張り〜」と、 お互いに、そういうポジションなのかなっていうのは、二俣に対してもそうやし、家族に対しても、そうですね。

二俣氏:うちの子供たちにとっては、剛は親戚のおじちゃんだからね。


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CENTRAL_:FUJITOの20周年企画ということで、最後にこういう話を聞かせてもらいました。この10年間は、CENTRAL_を通しても二人を見てきましたし、個人的には心の温まる話を聞くことができ嬉しかったです。

藤戸氏:無理して変わらん。例えば、生活の拠点であったりとか、仕事に対する考え方、 それに関しては、これからも一定した体温で、情熱は常に高い状態で続けていけてたら、これでよかっちゃろうね、とは思っています。








藤戸剛
“FUJITO”デザイナー
1975年 佐世保生まれ
2002年 ”FUJITO”スタート
2008年 ”FUJITO”旗艦店”Directors”をオープン
2014年 合同展示会”thought”を開催
https://gofujito.com/


二俣 公一
デザイナー
1975年鹿児島県生まれ。“CASE-REAL”と“KOICHI FUTATSUMATA STUDIO”を主宰。福岡と東京を拠点に国内外でインテリア・建築・家具・プロダクトのデザインを手掛ける。2021年より、神戸芸術工科大学客員教授。
http://www.casereal.com
http://www.futatsumata.com




FUJITO 20th Anniversary
‘SPINDLE’
Design by KOICHI FUTATSUMATA
2023 12/15wed〜
素材 : 黒御影石、スチール/粉体塗装仕上、オーク無垢材/ウレタン塗装仕上
カラー : 黒✕黒
サイズ : 幅195✕奥行き195✕高さ1,400 (mm)
価格:198,000円(税込)
受注販売:20台 ※Directors店頭および特設ECサイトでのみで注文可能
注文期間:12月15日(金)11:00〜25日(月)18:00
特設サイト : https://gofujito.com/20th-anniversary/

問い合わせ
Directors (FUJITO旗艦店)
住所:福岡市中央区警固3-4-3 東ビル1F
電話:092-733-3997
時間:11:00〜18:00
WEB : https://gofujito.com/



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