RIDE THE TIDE

機を逃さず新たな表現の場を

Photographs by MontBlanc Pictures / Words,Edit by Masafumi Tada

映画館やテーマパークなどで、身近になった3D立体視映像。実際に足を運んで体感し楽しんだことのある方も多いのではないでしょうか。その楽しさや面白さを詰め込んだ劇場が走り、街の中や郊外のイベント会場へやって来て、アトラクションを体験できるというプロダクト『放課後ミッドナイターズ ザ・ライド』が今春誕生した。制作を手掛けたのは、CGアニメーションや展示コンテンツなど、さまざまな映像の企画、制作を行なっているエンターテインメントスタジオ、モンブラン・ピクチャーズ株式会社(福岡市・高砂)。この「放課後ミッドナイターズ ザ・ライド」とは、 2トントラックをシアター仕様に改造した、移動型の映像アトラクションカーで、映画『放課後ミッドナイターズ』の世界感を3D立体視映像や 360度サラウンド、座席の振動などで体感できるというもの。そして、先日4月29日には福岡県・田川市の『いいかねPalette』でプレイベントが開催された。今回、なんでまた映画の世界から飛び出てきたようなものを作ろうと思ったのか、イベントの手応えはどうだったのか、同社代表の竹清仁さんとプロデューサーの江藤浩輝さんに話を聞かせてもらった。


CENTRAL_(以下C):映像制作を手掛けるモンブラン・ピクチャーズがアトクラクションカーを作ることになった経緯を聞かせてください

竹清仁さん(以下 T):映画『放課後ミッドナイターズ』を作って10年が経ち、ショートムービーにもファンの方がいるので何か恩返しができないかなと思っていました。この10年で、モンブラン・ピクチャーズの仕事の内容も変わってきていて、CMなどの映像制作だけではなく、たとえば、博物館用のVRを使ったアトラクションのような体験型の仕事が増えてきつつ、自分たちが持っているオリジナルのキャラクターで直接ファンになってもらえるようなコンテンツも作っていて、映画も制作しつつ体験型もやっているというのは、映像制作の会社ではちょっと特殊だと思うんですよね。それで、自分たちができること全部を組み合わせたらオリジナルの面白いものができるのではないかと思っていたんです。

モンブラン・ピクチャーズの話をすると、いま21名いるのですが、作るのが好きな人が集まっているんです。会社の存在意義というか、会社は世の中を豊かにするためにありますよね。ひと昔前は誰かを豊かにするためにプライベートを犠牲にしてまで働くという感じでしたが、今は時代も違い、ワークライフバランスといったことも言われていますし、法律もそうなってきている。世の中を豊かにするために活動しているものの、仕事をしている人たちの日々の仕事の時間が豊かでないと本末転倒だなとずっと思っていたんです。じゃあ、作るのが好きな人達の豊かな働き方って何かって、自分たちの作ったもので、お客さんが喜んでいる顔を見れること、実感することじゃないかと。映画を作って映画館に行ってお客さんを見ることで実感することもできるんですけど、もっとダイレクトにそれができるとみんな嬉しいんじゃないかと思って、コンパクトでいいから自分たちで作って、宣伝して、興行してという全部やれたら豊かになるんじゃないかなと思っていました。


IMG_7685 竹清仁さん


C:そういった想いがあったのですね。最初から車を使用した移動型にしようと考えていたのですか?

江藤浩輝さん(以下 E):はじめは、自分たちのコンテンツを発信できる場所を既存の劇場や動画配信サービスなどではない別のところで探していたんです。この移動型のアイデアが出る前は、コンテンツを作っていろんな場所で上映できるといいねという話は社内でも出ていたんですよ。個人的には、アーティストのマネごとみたいですけど、全国ツアーができたら楽しいだろうなと思っていました。どうやったら、それを実現できるかと考えた時に、日本中で上映できる場所を探して、交渉して、興行する、というのもなかなか大変だなとなって、それだったら自分たちで行く場所、行く場所でテント出してエンタメしてまわる、サーカス団みたいなことをするのはどうだろうというアイデアがでたんです。

T:「サーカス、いいよね。俺ららしくて、なんかいいぞ、いいぞ!」ってなってきて、「どこでやる?」「『放課後ミッドナイターズ』だったら学校がいいよね」となり、できれば廃校でできるとシチュエーションからして設定と合うから、テーマパークっぽくなりそうだしと、調べ始めたんですよ。そしたら、全国の学校の場所を借りるというのが廃校も含めて、いろいろな面でハードルがとても高かったんです。それで一度、断念したんですが、その後補助金のことを知り、やっぱり移動型にしてしまおうとなったんです。

E:「もはや、テントでもなくて、バスとかトラックとか、移動するそのものが劇場になってたら、何かと都合がいいんじゃない?駐車場でもやれるかもだし」と現実を知らないと本当に適当なアイデアがでてきて、それはそれは楽しかったですよね(笑)。


IMG_7703 江藤浩輝さん


C:移動型となる背景に補助金もあったとは予想していませんでした!?

T:新型コロナウイルス感染症の影響の長期化にともなって、新分野展開、事業転換などに対する事業再構築補助金というのがあるのを知って、これは使えるかもと思ったんです。社内で相談してみると、ちょうどその頃、制作真っ只中だったテレビシリーズがあって、いっぱいいっぱいだから無理ですよ。と一度は諦めたんですが、このチャンスを逃したらたぶん作れないだろうなと思って、ダメ元で申請してみたら通ったんですよ。申請に通ったら、一年以内に完成させて、一年以内に運営してないといけないので、両プロジェクトを並行して進めることになったのですが、スタッフみんなが知恵を絞って、一生懸命取り組んでくれて。補助金がなければこういう挑戦はできないので、よいきっかけとなりました。


C:さまざまな要素が重なり合って、移動型で立体映像を体験できる構想となったんですね

T:立体視で映像を作る時、カメラの設定でどれくらい飛び出して見えるとか、奥行きが出るとか、目が疲れないピントなど、すごいデリケートなんです。これまでは、この調整をするのがすごい大変だったのですが、さっきのアニメシリーズを制作するにあたって、新しい作り方をゲームエンジンを使って開発したんです。今回、そのシステムを使えたので、技術的なところでもたまたま役に立っていて上手いこといっています。


C:アトラクションカーの製作は、どのようにして進めたのか聞かせてください

E:まずは、車両探しからはじめました。『放課後ミッドナイターズ』なので、最初はアメリカで走っているようなスクール”バス”が良いななんて思っていました。ただ、実際に探してもらったマイクロバスを見てみると車内が狭く、座席もガッチリ固定されてるし、映像や照明などを使うアトラクションカーにするのは難しいだろうという話になって。

T:それで、トラックを見に行ったんです。バスと違って、運転席の後ろは箱型なのでスペースの確保はできそうだなと。ただ、このままだといわゆるトラックという印象が強く、ワクワクさがないので、どうするかを考えました。映画『ゴーストバスターズ』に出てくる車や、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアンのようにメカメカしくしたかったのですが、車検を通さないと公道を走ることはできないので、ボディに尖っているものは付けられないとか、ライトの色や位置が決まっているとか、いろいろと制限はありましたね。


IMG_7843 IMG_7849 IMG_7940 バスやトラックの視察


C:そのトラックのカスタムは、どうされたのですか?

T:社内で車両のデザインを考え、製作は福岡県那珂川市でキッチンカーなど移動販売車を製作しているオオカミレンジャーさんというところへ依頼し、これまでの経験などを生かしてもらい車検もクリアすることができました。それから、立体視やサラウンド、椅子の振動などのシステムは、福岡市の油山麓にスタジオを持つシンクロライトさんに協力してもらい、ほとんど地元のクリエイティブで作っています。


IMG_2087 IMG_9529 ボディを装飾する色をカラーチャートで確認



T:体験してもらう立体映像の位置や、乗客の席数、その高さなどは何回も社内でテストや調整を行いました。声優にはキュンストレーキ役に山寺宏一さん、ゴス役に田口浩正さんと映画版のオリジナルキャストに務めてもらいました。地元と東京とで実際に動き始めて、右往左往ありながら、いろんなことを同時進行でバタバタ進めて、なんかできてきたぞーという感じでした。


C:こうしてアトラクションカーが完成したんですね。会場での楽しみ方などを教えてください

E:テーマパークって、アトラクションを体験した後にある、キャラクターグッズのコーナーも楽しみのひとつだと思うんです。なので、アトラクションカー10分の体験と合わせてオリジナルグッズを購入できる空間も準備してみたりしてます。『放課後ミッドナイターズ ザ・ライド』の世界観や雰囲気、非日常感を楽しんでもらえたらと思います。

T:ここ何年か、GReeeeNさんのライブツアーをお手伝いしているんですが、リアルなGReeeeNはステージ上にはいないのにそこに来るファンの気持ちはどうなのかな、盛り上がるのかなと思いながらライブへ行ってみたことがあるのですが、好きなものが同じ人達が集まって、みんなで騒ぐ楽しみがあって、ちゃんとノレてる、そんな気持ちなんだなと感じたので、このアトラクションカーもいけると思っています!

スクリーンショット 2023-05-02 18.54.00 アトラクションカー『放課後ミッドナイターズ ザ・ライド』


C:4/29に福岡県・田川市の『いいかねPalette』で行われたプレイベントの感想を聞かせてください

E:どれだけ降るんだよというくらいの生憎の雨だったのですが、前日から雨の日シフトも考えていたので、受付などもスムーズに行えオペレーションはうまいこといったと思います。車の誘導スタッフはびしょ濡れになり大変でしたが…。一回目の公演はスタッフ全員でゲストを送り出し、無事に終えることができまして、その後も機材のトラブルなどなく順調でした。あとは、会場に設置したデジタル顔ハメや、キュンゴスの海賊版(?)格闘ゲーム、全身タイツのキュン様の登場などで盛り上がり、お客さんが楽しそうにしているのが印象的でした。チケットは完売し、当日に上映を追加したほどでしたので、イベント初心者チームの初回としては良いスタートとなりました。スタッフ用のコーチジャケットが欲しいという声があるほど物販も好評で、出店してもらったカレーのGARAMさん、manu coffeeさんも賑わっていて良かったです。ありがとうございます!


スクリーンショット 2023-05-02 20.59.13 会場での「放課後ミッドナイターズ ザ・ライド」

IMG_7350 『放課後ミッドナイターズ』のオリジナルグッズが並ぶ手作りのブース

スクリーンショット-2023-05-08-12.12.24 賑わう物販ブース

IMG_7593 キュン様ことキュンストレーキが登場

IMG_3505IMG_7373 蛍光塗料でシルクスクリーンプリントしたスタッフ用コーチジャケット



C:初公演となるアトラクションカーの反応はどうだったのでしょうか

E:ゲストの感想からは「想像以上だった!」という声が多く、「映像のクオリティが高い」「遊園地にあるアトラクションが来てくれた!」「テーマパークのアトラクション以上だった」とのことで手応えを感じました。都市部へ行かなくてもエンタメを楽しんでもらえて嬉しかったです。実際の車に乗車しているような感覚になり「少しゾワゾワした」という意見もありましたが、それだけ没入してもらえたのかな、と思っています。


スクリーンショット 2023-05-02 21.03.29 アトラクション体験中の様子


C:今後は、どのような展開をしていくのですか?

IMG_7696 E:『いいかねPalette』ではテストを兼ねた興行ではあったのですが、今後もリサーチを重ねていきながら、少しずつ運営していけたらと思っています。福岡市から来た方で会場まで遠かったという意見もあったのですが、次は5/14(日)に『INN THE PARK 福岡』で興行することが決まったので、福岡市内の方も行きやすくなるのではないかと。『INN THE PARK 福岡』には、レンタルサイクル、巨大アスレチック、当日は乗馬体験など、様々なアクティビティがあるので、アトラクションカーもその一つとして楽しんでもらいたいですね。


IMG_7678 T:今回の『いいかねPalette』には、manu coffeeさん、GARAMさんに出店してもらったのですが、もし全国を巡れるようになったら、福岡の人たちが作っている物などを預かって、県外で販売し福岡のことを知ってもらえるといいなと思っていまして、みんなが楽しみながら地元貢献できたらいいなと思っています。キッチンカーのフェスのようなものも開催されているので、そういうところへも行ってみたいですね。みなさんぜひ呼んでください。

アトラクションカーの車庫証明を取るには会社の所在地から3km以内でという決まりがあり、場所的にも、車両の大きさ的にもどうしようと思っていたのですが、以前より付き合いのある東映ホテルさん(福岡市・高砂)が近くにあり、普段はそこの駐車スペースを駐車場として借りています。もしかするとそこで興行することもあるかもしれないので、福岡に観光で来た方への、昼間のアクティビティの一つとして担うことができたらとも思います。屋台的な要素もありますしね(笑)。

映像業界のトレンド的にはメタバースにいっていますから、このコンテンツは完全に逆行しているのですが、VRでは親子、友達、みんなで一緒に楽しむのは難しい。コロナが落ち着きはじめた今、リアルなところで一緒にワイワイできる空間をつくることも必要ではないかと思っています。



これまではテーマパークなどへ行かないと体感することのできなかったアトラクションを、どこでも楽しめるという『放課後ミッドナイターズ ザ・ライド』。いったん乗車すると、そこには非日常の空間があり、外のロケーションがどこであっても関係なくなってしまう不思議な乗り物のように感じた。と同時に、場所を問わず、自分たちの想いを振らさずに運んでリアルに伝えることのできる新しいメディアのようにも話をきかせてもらい思えた。5月14日(日)、海の中道海浜公園「光と風の広場」内の『INN THE PARK 福岡』にやって来るので、実際に体感してもらいたい。





2023 5/14sun
会場:INN THE PARK 福岡
住所:福岡市東区西戸崎18-26 海の中道海浜公園「光と風の広場」内
料金:1000円/1席(3歳以上)、※海の中道海浜公園入園料は無料開園日のため不要
アトラクション体験時間:約10分
乗車チケット:当日受付にて販売予定
時間:受付10:30〜、上映11:00〜15:00
上映回数:30分おきに計8回上映 ※先着順・自由席
会場WEBサイト:https://www.innthepark.jp/fukuoka/




AFTER SCHOOL MIDNIGHTERS THE RIDE
「放課後ミッドナイターズ ザ・ライド」は、 2トントラックをシアター仕様に改造した、移動式の3D映像アトラクションカー。公式Twitterやハッシュタグ#asm_rideで最新情報を更新中。
体験時間:約10分
推奨年齢:3歳以上
公式Twitter : https://twitter.com/ASM_RIDE
WEBサイト:https://mtblanc.jp/products/5497


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