“IN PROGRESS”
新たな場所作りが進行中
Photographs by Ittoku Kawasaki / Words,Edit by Masafumi Tada
ことし7月、福岡市・大宮に映像をはじめ様々な企画制作を行なう映像エンターテインメントスタジオ『モンブラン・ピクチャーズ株式会社』の新スタジオが完成した。西鉄と福岡市営地下鉄の薬院駅より平尾方面へ南に向かって歩くこと数分、まず目に入ってくるのがイエローボディの通称 “放課後ライド”こと移動式の映像アトラクションカー。そして、その横には業務用のようなビニールカーテンがあり、その奥が薄っすら見えるがよく分からない。一見、何かのショップ? 工場?と思ってしまうところから興味が湧いてくる。同社代表の竹清仁さんに聞くと、元々は商材や資材などを置く倉庫と事務所を兼ねた物件と出会ったとのことで、ケース・リアルの二俣 公一さんに改装の相談をしたとのこと。1階には撮影スタジオや多目的に使用できる空間、2階にはオフィスを設け、古い建物を生かしながら新旧が交わった場所へと生まれ変わった。今回は、空間を展開していく中で意識したことや、この場所での展望などをはじめ、それぞれの作り方や考え方などを二人に聞かせてもらった。
CENTRAL_(以下:C) 最初に二人が出会ったのは、いつ頃にだったのでしょうか?
二俣さん(以下:F) そうですね、最初はあまり覚えてないのですが、マツケンさんがきっかけだったかもしれないです。
竹清さん(以下:T) 僕もあまり覚えてないですけど、マツケンさんとは相当古くからなので、そうだったかも。
F 大学を卒業して、22、23歳のころに展示用の作品にマツケンさんが音を付けてくれることになって、そこから少しずつ交流ができて、その流れなんじゃないかなと思うんですけど。
※マツケンさん:松尾謙二郎さん (https://invisi.jp/)
C では、20数年前に出会いは遡るんですね。
F そうですね、25、6年前かもしれないです。
T なんか、雑誌だったかで「CONCENTS」を知ってて、すごくセンスの良い人がいるなという印象でしたね。
F 僕は、大学時代の同級生のデザイナーから「KOO-KI」の話もよく聞いていて、竹清さんのこと知ったような気もします。
T 「KOO-KI」を始めた時って30歳だったから、今から28年前。
竹清仁さん(写真・左)、二俣公一さん(右)
C 出会ってから長いんですね!これまでに何かを一緒にすることはあったのでしょうか?
T モンブラン・ピクチャーズを始める時にデスクを作ってもらいました。使いやすくてかっこいいのがよかったから、ぜひってお願いして、作ってもらった記憶があります。で、社員が増えるたびに作り足してもらって。
F そう、事務所用にとデスクを依頼してもらい作りました。モンブランの立ち上げって何年でしたっけ?
T もう13年前ですね。
F あの時も、ちゃんとしたビルにいきなり入るんだと思って、ちょっとびっくりしました。まだ、僕らはシェアしながら事務所を借りていた頃だったので。
新スタジオではデザインはそのままにサイズを変更しデスクを追加
C 竹清さんが今回の新スタジオの改装を二俣さんに相談しようと思ったのは?
T もう二俣くん向きじゃないですか。倉庫の感じをめちゃくちゃ活かしつつ、僕らの夢が詰まった、いい感じのファクトリー感のあるスタジオ。絶対最高だろうなと思って、で、いま忙しいのは知ってるけど、やってもらう前提のトーンでメールして相談しました。
F 大事な場所ですし、象徴的な仕事なので、本当に嬉しかったです。
C 竹清さんが、この物件と出会った時の印象を聞かせてください。
T もともとは、さっき乗ってもらった“放課後ライド”を置くことのできる場所を探していて、この辺で探していたらたまたま見つけて。これまでも事あるごとに、この10年間ぐらい色々な物件を見には行ってたんですが、なかなか縁がなかったんです。で、今回も内覧だけでもと思ってここを見せてもらったら、もう倉庫物件でドンピシャリで!
F いつも思うんですけど、ほんとうに運とタイミングで、物件が出た時に、ポンって行けるか行けないかといった感覚みたいなものがありますよね。もちろん費用もかかりますし、覚悟もいるので、なかなか決まらないことも多いですが、ピタッとハマる時があると思うんです。
T 自宅の時もやっぱそうだったし、ほんと縁だなと思います。とはいえ、ここはめちゃくちゃ広いし、できたものもほんと素晴らしいんだけど、それなりに俺的にはかかるわけですよ。
F 最初に見たとき、竹清さんに「ここは広いですよ、面積分のコストがかかってくるから、どうですかね」と少し慎重な話もさせてもらいました。
T そう。でも自分としてはめちゃくちゃ入りたいし、二俣くんもやってくれそうだし、でもお金は借りなきゃいけない。それで、自分のせいじゃない何か別の理由でダメになったら、納得がいくなと思って、銀行などいろんなところと、めっちゃ強気の交渉してたんですよ。ダメな時は、そういうことだと思って。そしたら、ことごとく全部「いいですよ」「OKですよ」ってなって、これは、もう神様から入れって言われてるんだなと思って、進めることにしました(笑)。
C 二俣さんが、物件を見た際に感じたことなどを教えてください。
F 単純に魅力的な場所だから、面白くなるなとはすぐに思いました。ただ、もともと倉庫なので設備がついてない状況や断熱のことなどの問題もあるし、そういう部分で費用的にはかかると思ったんで、それが竹清さんたちの計画に見合っていくのかどうかが、現実的には気になった部分です。
この倉庫とか、こういう工場みたいなところを何かにバンって変換しようみたいな仕事も昔から色々とやってきたんですけど、最近は減っていたというか、しっかり作り込んでいくような仕事が多かったのもあって、緻密に作るのは得意な事務所だと思っていますし、全てを100パーセントで作り込む楽しさもあるんですが、それが故の制約というのもあったので、おおらかな部分やそういった空気感の中で作るのもやはり面白いですよね。例えば、数年前にKYNEくんのスタジオを設計したんですけど、その時も、そういう感じでしたね。今回も、それが瞬間的に分かりました。
T 確かに。最初に空間を見に来てもらった時に、“ここはこんな感じだったらいいっすよね”って言っていたアイデアが、そのまんまになってるんですよ。 なんか自分も分かる。いい感じに仕上がる時って、最初にもう見えますもんね。そう最初!
改装途中に行なった現調の様子。完成後と比較して見ると興味深い (写真:CENTRAL_)
C 完成した建物内は倉庫の雰囲気を感じつつ新旧が無駄なく交わっているように感じました。
F 外からの派手さはないですが、中は駆体など出すところは出して、作るところは作るという、メリハリをつけています。全体の色に関しては、駆体のプレートの色に合わせて少し暖色のグレーと決めて、サッシまわり、フレーム、階段を塗装しました。外観はあまり大きく触れないっていうのもあったので、整理できるところをきっちりと整理したという感じです。2階のオフィススペースは、モンブラン・ピクチャーズの主体となる仕事場なので、環境を適切にするためにも空調や防音対策などの機能性を大事にしつつ、コミュニケーションの図り方も考えました。
T やっぱり何と言っても、1階の吹き抜けのところは、そのまま倉庫感が活かされていて、この無駄な空間がもう最高。これがあるだけでだいぶ違うと思うんですよね。
F 結局、無駄が最高の贅沢じゃないですか。ふつう、こんな面積は取れないので、この物件の最大の特徴ですね。面積的に2階がオフィスとなるのが明らかだったので、1階はだいぶ余裕のある使い方ができるようになりました。
C この場所はネオンサインのタグラインの下にある黄色と黒の警告色の塗装も面白いですね。
F あれは、ふつうでは絶対に出てこないものなんで、既存を生かしながら作っていく上で堂々と使い切るっていう方が、ここの空間の潔さとか、モンブラン・ピクチャーズの遊び心とか、そのさじ加減が1番出るところかなと思い、そのままを残した方がいいんじゃないかなと思いました。
T いやぁ、あれは残して大正解でした!来た人みんなが、これヤバイですねって食いついてますよ。
F しかも、塗装は昔のまんまなんですよね。
T キメすぎないかっこよさみたいなのは、モンブラン・ピクチャーズとして大事にしてるから、それを表現してくれて、さすがだなって感じですね。
C この吹き抜けエリアにある二つの照明が気になったのですが。
F このスタジオ照明的なものは、いま既製品でバトンの付いたいい具合のものがなかなかなくて、でもスタジオといえばという感じがあったんで、こういうの作りたいという話をしたら、照明設計の方とメーカーさんが色々と考えてくれて、そのメーカーが持ってるLED照明をカスタムして、作り替えてくれたんです。
T これも最高でした。普通に考えるとすごい無駄なことなのかもしれないけど、そういう遊び心がいいですよね。
C 隣のミーティングルームにある照明も作ったんですか?
F 吹き抜けの大きな空間って、普通の規格のペンダント照明だと合わないので、何か考えなければと思ったんですよね。ダウンライトとかを照射するのはいいんですけど、地明かりとして“明かりの溜まり”がある方が、この空間には合うなって最初から思ってたんです。もともと鉄骨造の倉庫だった場所なんで、その高さはちゃんと活かせるような照明を考えました。
なんであの形になったかというと、まず高さが必要だったんですよね。で、特注で作るにしてもランプからの開発は難しいと判断して、使える既製のランプを前提に考えて。もちろん電球タイプでもいいけど、この空間の空気感や竹清さんたちの自由さもあったので、ちょっと見慣れないシュッとしたものを作りたいなと。
そこでライン照明が浮かんで、最初はもっとたくさん付ける案もあったけど、照明設計の方とも話して今の加減に落ち着いたんです。天井むき出しといった構成なので、フレーム自体をデザインし、そのフレームが露出している方に直管を取り付けるという少しインダストリアルな感じにして、さらに軸の下にはダウンライトを仕込みました。これは照明設計の方からの提案で、テーブルに直接光を落とせるようにしたかったから。天井からだと距離があるし、ペンダントの影も拾いやすいので、軸の下からパッと光を出せるようになっています。
C ミーティングルームは大きなガラスが囲まれていますが、中から外が気になりすぎることもなく居心地がよかったです。
F ガラスが透明色じゃなく少しブロンズを入れてるんですよ。ブロンズが入ると品がいいので、落ち着いた感じにもなって、なんか意識的にも少しだけ気持ちが変わると思います。
T 本当になんだか守られてる感じがしますね。居心地が良すぎるので、外に食事に行くスタッフもいるけど、テイクアウトを買ってきて、ここだったり、いろんな場所で食べたり、仕事の後に引っ越し祝いでもらったビールなんかを、みんなあちこちで飲んだりしてますよ。
T 実はちょっと個人的に聞きたかったんですけど、二俣くんはデザイナーとしてほんと尊敬してて、いつも課題解決に全力じゃないですか。その中で“二俣くんらしさ”も求められることも多いと思うんですよね。最近、それって矛盾することもあるんじゃないかなって思ってて。でも、今回の改装をしてもらって、全然そんなことないなって感じたんです。その辺の折り合いって、作る時にどうしてるのかなって。
F この20年ずっとやってきて、それはテーマなのかもしんないですけど、なんか自分で言うのもなんですが、真面目な方なんですよね(笑)、「困ってる」とか「問題がある」といったことを仕事として受けると、まずそれをどう解決できるかということが気になるんです。そこは無視できないし、責任感が発動するんですよ。
でも、デザイナーとしてとか設計者として、作家性や作品性みたいなものを求められることもあるから、機能的なところだけで推し進めるのも違うので、ここの折り合いをつける必要があるんですよね。非難する訳ではないですが、主軸となるコンセプトを決めて、ロジックを真ん中に持ってきて全部を沿わせるやり方にはあまり共感が湧かなくて。分かりやすや、伝わりやすさはありますが、そんなに単純ではないと思っていて、問題や必要な機能とかを、ずっと聞き入れながら、その課題解決や機能を積み上げた時につまんないものになるのかって言ったら、僕はそうじゃないかもしれないって思います。
その積み上げたものを、ディテールや色、素材に変換して、細かく作り込んでいくと、それがそのまま一つのまとまりになるんです。そこにさらに、施主の個性だったり、その建物ならではの特徴だったりを組み合わせると、見たことのないものになったりするという、そんな世界もあるなと。真面目に機能を緻密に積んでいって、やりきればつまらないものにはならないと、最近は感じています。逆に、そう理解して自分でやっていかないと、なかなかこのバランスをとるのは難しいので。
T うん、最終的には「使うもの」だから、なんか難しいっすよね。でも、みんなはいい感じのものが欲しいっていう。その両立だろうなと思います。
F そうですね。作品としてこうあるべき、っていうよりも、そのもの自体はこうあるべきだっていう理想はちゃんと持つようにしています。じゃないと最終的に仕上がりがぐちゃぐちゃになるんで。そのビジョンは描きつつも、途中のプロセスは意外と柔軟にやってるつもりなんですよね。ただ、この形と他の色や形とのつながりみたいなものは、ずっと緻密に計算し続けないといけないんですよ。だから結構、順応しながら仕事してる感覚なんです。
T 面白いですね。もう映像の世界にもそのまま置き換えられるなと思って聞いてました。話が脱線してしまいますが、映画作りで言えば、キャラクターが何を考え、どう行動するかを緻密に、そして素直に積み重ねていくことをしっかりやると、俺の個性を出そうとしなくても、結果的に世界観に色気が出て、それが個性になって人の心を打つものになるんですよ。逆に、先に自分の個性を出そうとすると、おしゃれだけの映画になっちゃう感じで、その辺がすごく似てるなぁと思いました。
F 今の話、自分に置き換えてもとすごくわかるなと思いました。建築でも、一発勝負で「これがコンセプトです!」みたいな感じで出して、「おお面白いですね」ってできる空間もあるんですよ。それはそれで間違いじゃないし、役割もある。でも建築って10年、20年、30年、もっと長く残るもので、その一発の発想が本当に持つのかって思うんです。だから自分は、一つずつ考えて積み上げて、手間をかけて作る方が、結果的に長く生きるものになるんじゃないかって感じてます。
Tそれは、緻密に積み上げたものが、使う人なり、観る人なりの、人の深いレベルの美意識に伝わるというか、なんかそういうことなのかな。映画だと、結局そういうことが心を打つ普遍的な作品につながるっていう感覚ですかね。
C 最後に、新スタジオに期待していることや、取り組みたいことなどを聞かせてください。
F 僕も福岡と東京に拠点があるのですが、福岡でもう少しできることがあるんじゃないかと思う部分も元々あって、竹清さんから新スタジオの話を聞いて、外に向けて開かれる場所として、いろんな人が集れるのはすごい素晴らしいなと思いました。エンターテイメントということをベースにしてる分、トークショーなんかでも学生も気軽にも来やすいでしょうし、固い話だけにならないというか、そういう部分にも期待もしています。何かあれば、僕も話します(笑)。
T ぜひ話をしてもらいたいですね。それだけじゃなくて、ケース・リアルの個展なんかもやってもらえたらと思ってます(笑)。
ここでは、大きく分けて2つやりたいことがあります。僕ら発信のエンタメをやっていきたいっていうのと、もの作りが好きな人たちを応援する企みのようなことを色々やっていきたいんですよね。ギャラリーとして使ったり、トークショーをやったりとか、それこそ仕事の延長上で例えば東京から面白い人を呼んで、第一線で活躍している人の話を生で聞ける機会を福岡の学生たちに作るのもすごく価値があるかなと思ってます。福岡ではそういう機会が少ないと思うので。それから僕らの考えるエンタメをテーマにしたショップもやりつつ、インバウンドの旅行者も多いエリアなので、そういう意味でも福岡に貢献できたらいいなと思います。まぁ、単純に面白いことをやっていきたいというのが一番なんですけどね(笑)。
竹清 仁
アニメーション映画監督 / ディレクター 九州芸術工科大学(現九州大学)芸術工学部 画像設計学科卒。 東映、神戸芸術工科大学勤務、KOO-KIの共同設立を経て、 2012年、映像で世の中をエンターテインするスタジオ「モンブラン・ピクチャーズ株式会社」を設立。
https://mtblanc.jp/
https://mtblanc.jp/member/36/
二俣 公一
空間・プロダクトデザイナー 福岡と東京を拠点に空間設計を軸とする「ケース・リアル」とプロダクトデザインに特化する「KOICHI FUTATSUMATA STUDIO」を 主宰。国内外でインテリア・建築から家具・プロダクトに至るまで多岐に渡るデザインを手がける。
http://www.casereal.com
http://www.futatsumata.com


















