Heart-warming

楽しんでもらいたいという想い

Photographs by Kei Maeda(DazaifuTenmangu), Hiroshi Mizusaki(artium) , Words&Edit by Masafumi Tada

先月1月28日から、天神と太宰府の二つの会場で始まった「#鹿児島睦展」。本展は、植物や動物をモチーフに描いた図案、独自の技法による器やオブジェといった造形で知られる鹿児島睦さん作品を二つに分け、天神の三菱地所アルティアムでは「図案」、太宰府天満宮宝物殿では「造形」に焦点をあてて展示を行なう。
どの作品からも鹿児島さんの人柄を表すかのようにどこか心温まる優しさが感じられ、国内外で高く支持されていることは納得できるのだが、それを本展のオープニングイベントが可視化してくれた。鹿児島さんが両会場を訪れるということもあって、地元福岡だけではなく全国から多くのファンが集まり、熱気に包まれた幕開けとなった。今回のFEATUREは、そんなオープン直後の鹿児島さんと、「鹿児島睦の図案展」「太宰府土産 梅とうぐいす」の企画・プロデュースを担当したbiotopeの築地雅人さんに、これまで共に開催してきた『図案展』などを振り返ってもらいながら、本展の見どころについて伺った内容をお送りする。




CENTRAL_(以下:C) まず、一緒に取り組まれるようになった経緯を教えてください。

築地さん(以下:築) 10年ほどに前になると思うのですが、自分が東京、世田谷の下馬で北欧のデザイン用品を扱うbiotope(ビオトープ)というショップをしていまして、そこで鹿児島さんの作品を展示させてもらいたいと思いオファーしました。以降、毎年展示して頂いていまして、2013年からは北青山の生活雑貨やグロッサリーなどを扱うdoinel(ドワネル)に場所を移し、「図案展」を開催させてもらっています。

鹿児島さん(以下:鹿) 初めのころは、私がサラリーマンを辞めて細々と作っていた器を中心に築地さんのお店に展示させてもらい、皆さんに見て頂いておりました。

4,5年目ぐらいから作品(器)がすぐに完売してしまい、会期中にお客さまが足を運んでくださっても作品を手にすることができない状況になっていったんです。

鹿 私が作った器を手にとって頂けないという方が非常に多くなってきましたので、ハンドメイドのものがなくなっても、お客さまに何か楽しんでもらいたいと新しくプロダクトも作るようになりました。

あわせて、器やプロダクトがなくても空間を楽しんで頂けるようにと壁画を描いてもらったこともあります。

鹿 6年ほど前ですかね。会期がスタートして2,3日でなくなってしまうので、作品がなくても楽しんで頂く何かを作ろうと思い、店内の壁を使ってフォトブースを作らせてもらいました。壁に葉っぱの茂った木を描き、170㎝ほどの高さのところにはリンゴの絵を描いたんです。そのリンゴの絵を頭の上や手の平にのせたようにして、皆さん楽しそうに写真を撮られていました。


_DSC1119 鹿児島睦さん



C 2013年にdoinelで『図案展』を開催されたきっかけを聞かせてください

鹿児島さんの器の人気が本当に高く、みなさんが手にすることも、目にすることもできないという状況があり、皆さんに見て頂けるものをと。鹿児島さんの魅力というのは、もちろん器にもあるのですが、器の中にある図案にもあると思うんです。陶芸作家ではあるんですけど、才能がそこに収まっている感じではなく、空間にも描くこともできますし、別のテキスタイルですとか、ほかの場所でも才能を表現することができる方ですので、陶芸作家という枠だけではない鹿児島さんを知ってもらいたかったんです。

鹿 図案展ということで、器以外のマテリアルや技法にトライさせてもらいました。布であったり、唐紙だったり、染をやったら、織りをやるといったように。そして、そのアーカイブを築地さんが沢山取っておいてくださいましたので、今回アルティアムの展示で見ていただくことができます。

C 今回の展覧会についてですが、オープニングイベントの反響はいかがだったでしょうか。

鹿 まずは両会場ともに多くの方に足を運んで頂き感謝しております。会期2日目に、アルティアムでおこなったライブペイントには会場がいっぱいになるほど集まって頂き、驚きました。 200名ほどは会場内にいたのではないでしょうか。

その後のサイン会にはイムズの8階をぐるーっと円を描くように行列ができるほどでした。初動の反響としてはけっこう良かったと思います。図案展の入場者は、会期を終えるまでに個展での記録をつくられるかもしれないですね。

_DSC1074 築地雅人さん



C 地元・福岡で二会場開催となったきっかけを聞かせてください

鹿 以前は年に一度、福岡で個展を開催し皆さんに見て頂いていたのですが、昨今、さまざまな販売の難しい点がありまして、ここ何年かは福岡で開催することができていませんでした。せっかく、福岡にいるのになかなかご覧頂ける機会を設けられていないなと思っていた頃、ほぼ同タイミングで太宰府天満宮さんとアルティアムさんからお声かけ頂きました。福岡で、皆さんに見て頂きたいという気持ちと、素晴らしいところからのオファーですし、何とかお役に立ちたいと。
本当にどちらもトライさせて頂きたい場所でしたので、どちらかを先にして、どちらかを後にするというのはスケジュール的に難しいと思ったんですね。私の都合で申し訳なかったのですが、だったら一度に開催できないかと思いまして。

二会場ありますから、これまで築地さんのお店で開催してもらっていた図案展のアーカイブも見て頂きたかったですし、海外での企画展なども一緒にしてもらっていましたので、すぐに連絡して進めることになりました。
そうなってくると、ふだん私がお世話になっている皆さんに力を貸して頂かないということで、企画に築地さん、アートディレクターに前田景さん、会場構成にIMAの小林恭さん、小林マナさん夫妻と、いつものチームで動き始めました。


C いつ頃から、そのチームで動かれているのでしょうか

アートディレクターの前田さんとは、10年前にbiotopeで鹿児島さんの個展を始める際に入ってもらったという経緯がありました。その後、弊社で企画させてもらった太宰府天満宮でのフィンランドテキスタイルアートで、空間構成にIMAの小林さん夫妻にも入って頂き弊社としてはお付き合いがあったのですが、IMAの小林さんが鹿児島さんのファンですでに鹿児島さんのことをご存知だったということもつながって、doinelで新たに始めた2013年の図案展で、鹿児島さんを中心に4者でご一緒させてもらい、台湾での展示ファミリアでの展示なども同メンバーで行いました。

鹿 お互い長くご一緒させてもらっているので、フラットに色々と相談できて心強いですね。

今回の展覧会ではPRにデイリープレスの山本真澄さんや、福岡では田中敏憲さん、Webに木村 尚史さんなど多くの方に協力して頂いています。


C 今までの経験やチームワークが生かされた本展の楽しみ方を教えてください。
まずは、アルティアムでの図案展からお願いします。

個人的には、陶芸作品の器を沢山見て頂けることではないかと。会場入ってすぐ右手の壁に器が絵のように飾られているので、最初に皆さんじっくり見たり、写真を撮ったりされています。Instagramでの投稿も多かったですね。いつも見られない器が一堂に会しているのは見どころの一つだと思います。

会場は3部構成になっていまして、まずはその器ですね。そして、図案。2013〜16年にかけてdoinelでさせて頂いた図案展のアーカイブや、鹿児島さんが図案展以外でコラボレーションされたものを両サイドの壁に展示しています。3番目に、空間構成がありまして、図案を描くライブペインティングや、IMAの小林さん夫妻とのコラボレーションでハンカチの図案を引き伸ばしたものを床や壁面に展開しています。

_DSC1131

鹿 ハンカチの図案ですので元々は小さなものなのですが、引き伸ばしていっても違和感がない、らしいです。ただ、海外でも大きな絵を壁に描かせてもらうこともあるのですが、基本的に小さい器に絵付けをしているのと同じ感覚で描いていますので、私の中では違うことをしているという認識はないのです。

器の展示は、お皿で、お皿のかたちを作っただけですので、特別な工夫はないのですが、イギリスの方など壁にお皿を飾られ、あのように楕円や正方形にレイアウトして楽しんでいまして、現地でお客様達から「うちはこういう風に飾っていますよ」と、見せて頂くのが楽しいので、来場された方も、その楽しさを感じてもらえたらと思います。


_DSC1165

C 続いて、太宰府天満宮宝物殿での造形展についてもお願いします

鹿 太宰府天満宮さまには、大伯父の鹿児島寿蔵のとても美しい人形を展示して頂いているので、私は人型のものではないものを作ろうと思いまして、梅の時期ですし、曲水の宴をイメージできるものにしようと。通常、曲水の宴には一般の方は中に入ることもできませんし、梅の時期もわりと短く花が散ってしまうと寂しいので、来場された皆様が梅林の中に入りこめるものを作りました。

まずは、奥のガラスケースの中に展示させてもらっている陶の梅を制作しました。板状にした土を弓でザクザクと切っていき、平面の木が層をなして厚みを持ったような梅の木ですね。2次元のものが3次元なってくるところは、図案展と重なってくる部分でもあるかと思います。そして、当初からあの空間で大きなものを見せたいという話も太宰府天満宮さんともしていましたので、その陶で作った梅の木を拡大してみてはどうかということで、最終的には段ボールで表現しました。

段ボールで作った大きな梅林の中にお客さま方が入って楽しんで頂く、あの場所がメインとなりますので、壁に描いた梅やケースに入った造形作品の梅の木は背景なんです。奥のガラスケース置いた陶の梅を着彩する際は、できるだけ遠くで霞んでいるようイメージでできるだけフワっとさせました。近景と遠景を楽しんで頂けたらと思います。

_MG_8463 _MG_8336

それから、doinelで日本の工芸品というか日本で古くから作られているプロダクトと、鹿児島さんの図案を組み合わせた製品を作るというプロジェクトの延長上でもあったのですが、造形展に合わせ太宰府天満宮公式のお土産として鹿児島さんの図案を元にした、お干菓子を「鈴懸」さんと製作しました。

鹿 過去に洋菓子は作らせて頂いたことはあったのですが、和菓子に対する憧れが強かったですし、作り方のプロセスを学びたいと思っていましたので、良い機会となりました。

当初、干菓子の木型を作る職人さんへ“もう少し丸く、ゆるく”といったオーダーをしていたのですが、平面でのやりとりですと伝わりにくいと思い、鹿児島さんに素焼きの陶器を焼いて頂いてイメージを伝えていき完成させることができました。その木型の変遷などもアルティアムに展示していますので、立体化のプロセスを見て頂けると思います。


_DSC1166 _DSC1147

C 二会場を巡ることで見えてくるものもあるのですね

お干菓子に関しては、太宰府天満宮ではお土産として、アルティアムでは展示として楽しんで頂けます。そして、立体(造形)なんですけど図案から始まったものという点にも気づいてもらえるかと思います。それから、今回の展覧会には福岡以外の方にも来て頂きたと思っていますので、太宰府天満宮は梅の時期でもありますし、展示と合わせてそれぞれの街を楽しんでもらいたいです。

鹿 太宰府天満宮では図案から造形という展開を、アルティアムでは図案で表現した様々なものを見て頂けます。そして、両会場ともにグラフィックやアートディレクションに前田さん、空間構成にIMAの小林さん夫妻と一緒にさせてもらっているのですが、それぞれにコントラストがついていると思うんですよ。内容や見え方も違うのですが、その中にある沢山の共通点を感じて頂くのも楽しいのではないかと思います。







鹿児島 睦  Makoto Kagoshima 
1967年、福岡生まれ。陶芸家・アーティスト
美術大学卒業後、インテリア会社に勤務しディスプレイやマネージメントを担当。2002 年より、福岡市内にある自身のアトリエ にて陶器やファブリック、版画などを中心に制作。日本国内のみならず、L.A.、台北、ロンドンなどで個展を開催し、近年では世界中にファンが広がる。作品制作の他、国内外のブランドへ図案の提供も行っており、陶器にとどまらず、ファブリックやペーパーなど様々なプロダクトを発表。また、国際的なアートプロジェクトへの参加や、空間への壁画制作など活動の幅は多岐に渡る。
http://www.makotokagoshima.com



築地 雅人 Masato Tsukiji
1975年、福岡生まれ。 株式会社ビオトープ代表。生活雑貨とグロッサリーの店『doinel』オーナー。 感性を豊かにする暮らしや、背景のある美しいもの、作り手の意思が感じられるものを紹介する活動を展開。http://www.doinel.netwww.biotope.biz




鹿児島睦の造形展
Makoto Kagoshima ZUAN Exhibition

2017年1月28日(土) 〜 3月12日(日)
会場:太宰府天満宮宝物殿
住所: 福岡県太宰府市4-7-1
TEL:092-922-8225(9:00~17:00)
時間:9:00 ~ 16:30(入館は16:00 まで) 
休館日:2/6、13、20、27、3/6      
拝観料:400 円(一般)、200 円(大学生・高校生)、100 円(小学生・中学生高)
http://www.dazaifutenmangu.or.jp/




鹿児島睦の図案展
Makoto Kagoshima ZUAN Exhibition

2017年1月28日(土) 〜 3月12日(日)
会場:三菱地所アルティアム
住所:福岡市中央区天神1-7-11 イムズ8F
TEL:092-733-2050(10:00 – 20:00)
時間:10:00〜20:00
入場料:400円(一般)、300円(学生)、高校生以下無料、再入場可
休館日: 2月21日(火)、2月22日(水)
詳細の確認はコチラから

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