SIGN OF SUMMER

太宰府で初夏を感じる

Photographs by Mizusaki Hiroshi , Words&Edit by Masafumi Tada

5月12日より、太宰府天満宮で始まった「太宰府、フィンランド、夏の気配。」展。本展は、フィンランドとつながりのある日本人アーティストの陶芸家 石本藤雄 氏と、写真家 津田直 氏による展覧会となっており、宝物殿では「実のかたち」と題し、太宰府天満宮の象徴である梅の実、夏に旬を迎える冬瓜、ブドウ、南天の実をモチーフにした石本氏の陶器作品を、文書館では「辺つ方(へつべ)の休息」と題して、フィンランドでの初夏を写し撮った津田氏の写真作品を展示している。今回のFEATUREは、石本氏、津田氏の両アーティストと、宝物殿の会場構成を担当した設計事務所imaの小林恭氏+マナ氏、同じく文書館を担当したCASE-REALの二俣公一氏にも登場してもらい、各会場にて作品や空間について伺った内容をお送りする。



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まずは、宝物殿企画展示室で開催されている陶展「実のかたち」から。陶芸家の石本氏は穏やかな優しい口調で作品のことを、設計事務所imaの小林氏、マナ氏は、その作品を展示・構成していく背景を話してくれた。

CENTRAL_(以下:C) 「壁一面に広がる梅の実をモチーフにしたウォールレリーフが印象的でした。花ではなく実を題材にされたきっかけを聞かせてください」

石本氏(以下:石) 「会場が太宰府天満宮ですので、シンボルの梅を題材にしたものをと思い、最初は右の方に展示してあるように梅の花で進めようとしていたんです。でも、展示の始まる初夏の時期に花はもう咲いていないですからね、それで実をつくることにしました」

_DSC9954 石本藤雄 氏


C 「軸のある形や、さまざまな色があり華やかな感じを受けました」

「昨年、日本に帰ってきた時に地元・愛媛へ行き梅を見てきましたが、どういう生態なのかまでは詳しくなかったです。それで、形は枝から伸びた軸が実に付いている状態でつくり始めたんですよ。そして、地面に落ちている梅の実を思い出した時に、軸の付いていないものが多いなと思いましてね。軸を取ったものはコロコロとした実の感じが出ると思い、枝に付いているものから自然に落ちた様子までをつくることにしました。

色は、自然の中にある実物の色というものに僕自身はとらわれていませんので、色とりどりの緑、熟れていく感じの黄色、うんと飛躍して雪をかぶった白にしたんです。壁一面への展示は、小林さんの方にアレンジしてもらいました」

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C 「作品の配置に関しては、小林さんの方から提案されたのでしょうか」

小林 恭氏(以下:小) 「そうですね。最初、石本さんとのやり取りの中では、壁に枝的なものを筆で描くなどして、そこに実がついているようなレイアウトにしてもいいのではと話をしていたのですが、途中で枝をなくしてもいいんじゃないかということになったんです。でも、実は見えない枝があるんですよ。それまで打ち合わせをしながら作ったレイアウトには枝があったので、その配置のままレイアウトしているんです。枝が見えなくなることによって、皆さんに自由に想像しながら見てもらうこともできるかと思います」

マナ氏 (以下:マ) 「御神木は“飛梅”なので、梅の実が飛んでいるようにも見えますし、発想が自由になりますよね。壁に対してまとめて見せるようにしているんですけど、見えない枝があることで動きも出たかと思います。あと、右端に配置した梅の花が全体を締めてくれているんじゃないかと」

「一つ一つでも作品にもなりうるし、壁全体でも一つの作品としても成り立っていますし、枠の中で動きも出ましたよね」

_DSC9980 写真左より、設計事務所ima 小林恭氏、マナ氏



C 「会場中央で独特の存在感を放つ冬瓜をモチーフにした作品ですが、これまでに題材にされたことはあったのでしょうか」

「冬瓜のレリーフは作ったことがあったのですが、立体作品にしたのは今回が初めてですね。冬瓜はご存知ですか? 夏に採れる丸っこい瓜の仲間です。最初はね、釉薬のかかった艶のある物からつくり始めたんですけど、転ぶと窯をだめにしてしまう恐れもあるので、大きくして釉薬をかけずに土そのものを高温で焼き上げるようにしました。こちらも色は写実性にとらわれず、チョコレート色や赤褐色など土の色をそのまま使ったもの、釉薬をかけた艶のある緑や黄色いもの、白い釉薬をかけ二度焼きして雪をかぶっているように見えるものとかですね。展示はゴロンと畳の上に置くような感じがいいかなと思っていました」


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「石本さんからゴロンと見せたいというのはあったんですけど、畳はあまり合わないのではないかと、白い台にしようとか、石本さんのファブリックを敷いて、その上に置こうかとか考えましたが、白の背景だとモダン過ぎるので、質感があり、程よく背景にもなるよう、このように木の素地を生かしたものにしました」

「先ほどの枝もそうですが、ファブリックを敷く案などが出ていたんですけど、それを全て削ぎ落としていったという感じです。そして、その削ぎ落としていった跡とレイアウトだけが残っています」

「私の理想としては、これ(冬瓜の作品)を抱っこしてもらえると、そのもの自体を理解してもらえるとは思うんですけど、落としたりすると危ないですしね(笑)」

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C 「来場される方に、どういったところを楽しんでもらいたいでしょうか」

「今回、作品を素直にキレイに見せる方がマッチするのかなという意識がありましたので、会場自体は暗くして作品が浮かび上がるような構成になっています。写真では分からない、テクスクチャや釉薬によってできるヒビの表情など、そういう細かいところまで、じっくり鑑賞してもらえたらと思います。それから、作品と作品の間(ま)を新鮮に感じてもらえることを目指し構成していますので、そういうものも楽しんでもらいたいです」

「会場に入ってくると梅のウォールレリーフが目に飛び込んでくると思うんですけど、石本さんの梅の実を感じて頂いたあと、外に出てからも木の枝に付いている梅やコロコロと落ちている梅を見て頂いて自然も一緒に感じでもらえたらと思います。それから、大皿作品を展示している棚は、ヘルシンキにある石本さんのアトリエの風景を再現していますので、その雰囲気も感じてもらえるのではないでしょうか」

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「そうですねぇ、冬瓜を抱っこしてもらうわけにはいかないしなぁ(笑) それくらい、近くで作品を見てもらえたらと思いますし、梅の実を再認識して頂けたらと思いますね」






_DSC0025 続いて、文書館で開催されている写真展「辺つ方(へつべ)の休息」について。津田氏はフィンランドでの撮影時に経験してきた話、二俣氏からは、その経験と会場の特性をかけ合わせた会場構成の話を語ってもらった。


C「フィンランドへ撮影に行かれたのは本展のためだったのでしょうか」

津田氏(以下:津) 「フィンランド自体には何度か撮影で訪れたことがあったのですが、今回『太宰府、フィンランド、夏の気配。』というテーマの元に声をかけてもらいまして、企画に賛同し新たなプロジェクトとして始まったので、本展用に撮影に行き新たに撮り下ろしたかたちになります。これまで、自分から撮りに行って作品にすることが多かったので、こういったケースは珍しいですね」

_DSC0043 津田直 氏(右)と二俣公一氏(左)


C 「撮影に行かれたタイミングと、撮影地の一つであるヴァーノ島のことを聞かせてください」

「去年の5月、ちょうど一年前に撮影しているので、今時期のフィンランドは新芽の季節を迎えています。ヴァーノ島は、フィンランドの南西部にある群島の一つで人口15人くらいの小さな島でして、なぜここに行ったかというと、夏になると人口が200人くらいに増えるからです。サマーコテージを借りるなどして、渡り鳥のように人々が夏の間に集まってくるわけですね。

本当に渡り鳥も多い島なので、まずは鳥達がやって来て、その後に岩場や岸辺の草木の新芽が芽吹く、その静かな時間を僕が撮り終えた頃、ヘルシンキからも船が出て群島の合間を縫って人々が入ってくるので、その夏の始まりの一番早い段階を撮りたかったというのがタイミングとしてあります。季節の入れ替わりを撮りつつ、季節の動きとともに人間も心を重ねて動き出すという、その直前を撮りたいと思いました。新芽が開こうとする初日みたいなものが、台の上に展示してあります」

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C 「作品が展示されている様々な台座をはじめ、会場について教えてください」

「今回、文書館という日本建築の壁面の少ないところで展覧会をするということで、展示する写真をどう自立させるかというところが僕の抱えた問題でした。すでに、この場所についてご存知だった二俣さんに相談し、テーマである初夏であったり、撮影地が島だったりということを伝え、僕からは空間的なアイデアはあまり出さずに構想を考えてもらいました」

二俣氏 (以下:ニ)「最初に文書館の物理的な話をすると、例えば釘を打ったり、何かで留めたりすることは一切できないという制約があります。その中で展示する面をどうやって作りだすかと考えた時に、“自立させるしかない”というところから始まりました。次に、どうやって自立させるかなのですが、襖、畳、雨戸と全てがそのモジュールで造られた建物で、それ自体が美しいので単純にそのモジュールだけを利用してパネルや展示台を作ることを考えました。

タイトルの入ったパネルは襖のモジュールで作り、襖と同じようにはめこみ、展示台は畳を外して畳と同じサイズではめ込んでいるんです。写真を展示する面を取るためにも畳のモジュールのまま隆起させていますが、津田さんから島に凹凸があることや、島々が沢山ある話を聞いていたので、そういう隆起した物が会場にあることで撮影地のランドスケープのような感覚が出るのではないかというのもあります」

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C 「作品を展示されている位置も足元から目の高さまであり、視線を変えて楽しめました」

「会場に入ってすぐのオールの写真は、自分の中でも低い位置に展示しようというのはあったんですよね。実際に舟をオールで漕いでいる時に撮ったものですが、ヴァーノ島へは船で入ってくることもあるので、導線として、ここが始まりのような感じというか。あと、リアルなスケールで経験的なものの位置に置くことで溶け込むのかなと思いました。あの低い傾斜は、二俣さんも言われていたように畳2畳分から隆起しているんですけど、ルールというしばりがある中でもストーリーにしていくという解釈をされて、あの形状を出してもらいました」

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「奥の玉座は、本来、高い地位にいる人がお使いになる部屋だと考えると、建物の持っている緊張感をそのままに、一段上がる時に、その心持ちで入ってほしいと思いがありました。ここ以上に高い場所は会場内にないので、見上げるような風景の作品をフレームで正当にというか、真っ直ぐ見せた方がいいというのは、自分の中にありましたね。スケールがあり、季節を触るような作品をというイメージでした」

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「玉座の襖を外すかどうか、というのもあったんですけど、あえて外しませんでした。あの場所だけ“空気が違うな”というのがあったので。あと、展示されている写真を撮影された時も、そうだったんでんしょうね。岩場の先端なのか、そういうところから見上げているような」

「そう、あの写真は見上げているんですよ。下は湖でして、その水面から上に広がる空がはじまる一番下から上までを撮っているので、レンズは見上げています。足元の写真から見ていき、一段上がったところで上を向いているものを正面に見たほうが、スッと抜けていくというようなイメージがあったので。自分の経験と、ここで設えとして二俣さんと再構成したランドスケープとが重なり合い、収まっているという感じがしています」

C 「これから来場される方へおすすめの楽しみ方があれば教えてください」

「雨の日に搬入したんですけど、雨の日もすごくいいと思います。気持ちが静まり、どこにいるのか分からない感じがするんです。自然のもっと奥深くに入ったような、例えば誰も人がいないとか。雨の日の静けさや雨の匂い、染み込んだ水で緑が芽吹いていくんだろうという、その手前の感じとか、それが妙によかったので、気配という言葉が一番合うかも。より内側に気持ちがいくのかもしれません」

「抜け感のある空間なんですけど、外の雨音がずっと耳に入っている感じが、この中に閉ざされているようで不思議な感じもするんですよね。この廊下のひさしの長さも関わっていると思うんです。ひさしが伸びているということは、室外だけど雨が落ちてこないエリアで、雨が降っている外と中の部屋の間にバッファができるということは、空間的には奥行きがでますし、中にいる時の落ち着きが違いますよね」

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「あと、今回は石本さんと同時に開催させて頂くということで、タイトルに「休息」という言葉を使いました。石本さんが作られたテキスタイルにLepo(レポ)という柄があるのですが、フィンランド語で「休息」という意味でして、学生時代から持っていた生地でもあり、生活の中でも見てきました。そのLepoを使った座布団を置いていますので、座ってみてもらえたらと思いますし、二つの展覧会をまたいで、太宰府の初夏を感じてもらえたらと思います」






石本藤雄 Fujiwo Ishimoto
テキスタイルデザイナー、陶芸家。1970年よりヘルシンキを拠点に、ディッセンブレ社、1974年から2006年までマリメッコ社にてデザイナーとして活躍。1989年からはアラビア社アート部門において陶芸作品を制作する。フィンランド政府の工芸工業賞や、カイ・フランク賞など受賞歴多数。2010年フィンランド獅子勲章プロ・フィンランディア・メダル受勲、2011年旭日小綬章受章。


設計事務所ima(イマ)小林恭 + マナ
世界中の「マリメッコ」店舗をはじめ、数多くのショップインテリアデザインや展覧会の会場構成を手がける。使いやすさやの中にバランス感覚やユーモアを織り交ぜた設計を得意とし、太宰府天満宮・案内所のインテリアデザインも担っている。 http://www.ima-ima.com/



津田 直 Nao Tsuda
写真家。日本だけでななく世界中を旅しながら、ファインダーを通して古代より綿々と続く、人と自然との関わりを見つめ続けている。旅の先々で広がる風景に全身で向き合い、自然を切り取ってきた。2001年より個展を中心に多数の展覧会を開催。2010年、芸術選奨新人賞美術部門受賞。大阪芸術大学客員教授。2012年より東京と福岡の二拠点にて活動。
http://tsudanao.com



CASE-REAL(ケース・リアル)二俣 公一
空間・プロダクトデザイナー。福岡と東京を拠点に、空間設計を軸とするCASE-REALとプロダクトデザインに特化するKOICHI FUTATSUMATA STUDIOを主宰。建築からインテリア、家具、プロダクトにいたるまで活動の幅は多岐に渡る。 http://www.casereal.com/




太宰府、フィンランド、夏の気配。
石本藤雄「実のかたち」展
津田直「辺つ方の休息」展
2018 5/12~7/1(日)
場所:太宰府天満宮「宝物殿企画展示室」「文書館」
住所:福岡県太宰府市宰府4-7-1
Tel:092-922-8225
時間:9:00~16:30(入館16:00まで)
休館日:月曜日(6/25は開館)
拝観料:共通チケット[宝物殿+文書館] 一般 700円、高大生 300円、小中生150円、
宝物殿・文書館それぞれ 一般 400円、高大生 200円、小中生100円
http://www.dazaifutenmangu.or.jp
http://www.dazaifutenmangu.or.jp/natsunokehai/
https://www.instagram.com/natsunokehai/

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