DAYS_
開放された耳には、自分に必要な音しかはいってこない。
April 28, 2016 /
ホイアンには、セブンイレブンやマクドナルド、ケンタッキーフライドチキン、スタバが見当たらない。その代わり、いたるところに”よろず屋”があるし、「バインミー」や「コムガー」、「カオラウ」などのヴェトナム風ファーストフードを提供する店や屋台が星の数ほどもある。値段も安く、味も千差万別でハズレは少ない。みんなそれぞれに贔屓を持っていて、店もそれなりにやって行けているから、画一的な味のチェーン店が入り込む隙がないのだろう。
ぼくは、旅で辿り着いた町にアメリカ系のチェーン店を見つけると「あーあ、やっぱり」と思ってしまう。買い付け旅を始めた15年ほど前は、コペンハーゲンやストックホルムでセブンイレブンを見つけるとホッとした。FAXを使えることが大きかった。なにしろその頃はインターネットでメールって普及してなかったからだ。ファーストフードなら、ケバブ屋とかホットドッグ・スタンドで済ました。旅先でわざわざ味気ない食べ物に手を出す気にはなれなかった。
コーヒーだけど、これはどの食堂でもほぼ例外なく飲める。ただし例の練乳入りの甘ったるい「ヴェトナム式」だ。フツーのコーヒーも、観光客向けのカフェで飲めるから不自由はない。それにサードウェーブのコーヒーを飲ませる店だってある。ぼくらが訪れたのは、細い路地を入ったところにある、喧騒とは別世界のハイダウェイ。小さな庭付きの住宅を利用したインディなしつらえ。そこに佐藤蛾次郎似のお兄さんがいる。先客は若き欧米人が4人だけ。細君はグアテマラのストレート、ぼくは日和ってアイスコーヒーをオーダー。ウン、旨い。適度な音量のBGMは、最近気になっているカナダのシンガー・ソングライター系にも通じるパーソナルな歌もの。蛾次郎さんの雰囲気によくマッチしていて悪くない。「国境なき音楽団」ってな感じ。
そういえば、ガイドブックにも載っている聾唖者のスタッフが運営しているというティーハウスにも行ってみた。当たり前かもしれないが「静か」なのである。メニューの中国茶を指し示してオーダーを済ませると、あとは古い町家の風情を活かした室内の調度に目をやったり、細君と小声で会話するしかない。開放された耳には、自分に必要な音しかはいってこない。もちろんBGMもない。それがいい。緊張感さえ心地いい(昔の喫茶店ってBGMないところも多かった)。それにしてもスタッフの女性がみんな美人すぎる。視覚も敏感になってしまったようだ。