VERSUS

既成概念にとらわれない二人のVS

Photographs by Hiroshi Mizusaki, Words&Edit by Masafumi Tada

エキシビジョンの開催やファッションブランドへのアートワークの提供など、ともに活躍するアーティスト・神山隆二と内田洋一朗。その二人が、福岡市・赤坂の〈KIYONAGA&CO.〉の実験的POP-UPの第3弾として、”KAMIYAMA★UCHIDA” PAINTINGS を開催している(2017年7月23日まで)。二人展とはいえ、テーマに「VS」が込められた本展。「VS」と聞くと、つい勝ち負けや敵か味方といったイメージをしがちだが、そういうことではなく、アーティストをはじめ観る人すべてが作品と対峙した時の感じ方ではないだろうか。そんなことを和やかで笑いの絶えない二人の対談を聞きながら思った。今回は、企画を担当した清永浩文氏を交え、本展の背景にあるものを語ってもらった。



──以前、福岡で一緒にイベントをされていましたが、神山さんと内田さんの出会いは?

神山「知り合ったのは、何年か前の合同展示会〈FOR STOCKISTS〉だったよね」

内田「そうでした、〈FOR STOCKISTS〉でしたね。その時に開かれる、〈ULTRA HEAVY〉の石川さん、〈STUDIO PREPA〉の平さんらと一緒に“神山さんの会”があるんで(笑)」

神山「別に、俺の会じゃないんだけどね(笑)。ただ、みんなで飲むだけで」

内田「それから、2年前にうちの店(PLACERWORKSHOP)を福岡市・玉川から薬院に移転してからすぐのライブイベントで一緒させてもらいました。二人でこういう感じでちゃんと作品を展示するというのは初めてですね」

神山「ね、ホントだよね」

_DSC0289 二人展を開催した神山 隆二(左)と内田 洋一朗(右)



── 今回、二人展にしようと思ったのは?

内田「最初、“吉祥寺VS薬院”というところから始まったんですよね」

神山「それも、みんなで飲んだ時の話だもんね(笑)」

清永「今回の“神山VS内田”というのは、この場所、僕じゃないと、この組み合わせはないのかなぁと思って。内田くんは、この街(福岡)のスターじゃないですか。今までも色々とやってきているし、これからもソロでやっていくと思うんです。だから、僕が“内田展”をやってもね、というのはあるかと。“違う内田くんを”というか。組み合わせによる妙というか。そういうところが、一番にあるのかも」


── それぞれの作品にテーマのようなものはあるのでしょうか

清永「内田くんは、僕に寄せてくれてマッシヴ・アタックのリリックからで、神山くんは、僕が購入した彼の作品にケイト・モスが描かれていたというのもあってケイトの作品になっています」

神山「最初は、勝手にこんな感じでいこうかなぁというのを、ここへ打ち合わせで来た時に言ったんですけど、清永さんにバサッと切られたんで(笑)」

内田「僕は、今回のお話を頂いた時から、ずっとやりたかったことを描こうと思っていたので、マッシヴ・アタックのリリックしか描いていないですね。ここ(KIYONAGA&CO.)のノベルティのお仕事でマッシヴ・アタックに関連したこと描かせてもらっていて、そのつながりもあったので」

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── 二人展だけに制作期間中に相手を意識した点はありましたか

清永「今回の告知ポスターはウォーホルとバスキアのポスターをオマージュして作っているように、2人の“VS”企画なんです。お互い、手の内を見せずに設営を迎えるという」

内田「事前のすり合わせなどなかったですもん(笑)」

清永「設営の際に梱包を開けて、その時に初めて “神山は、こうきたかぁ”みたいな」

内田「最初は、神山さんがどんな感じで上げてくるかなぁと気にしていたんですけど、最初だけでした。後半はそんな余裕もなかったです。自分のことに集中にしないと、どうにもならないので」

神山「どう出てくるかというのは、あまり意識してなかった。作品をケイトで進めることになったあと、なんとなく考えていって、空間が空間だけに、キャンバスのサイズだけは二人で合わせようとは思いましたね」

内田「そこだけですよね。サイズと枚数を合わせようということだけ決めました。でも、制作途中で神山さんのサイズが変わったんですよね(笑)」

神山「キャンバスの号数は変わっていないんだけど、FサイズかMサイズで。シルクを製版していたら大きくしたくなっちゃったんだよね(笑)。結果、ウッチーは、そのまま細長いMサイズだったんだけど、作品の内容にも合っているなぁと設営の時に見て思った。結果オーライだよ(笑)」

清永「神山くんは、いつも結果オーライだから(笑)」

_DSC0310 本展の企画をした清永 浩文



── 共作以外のメディアはキャンバスなんですね

清永「内田くんからすると、キャンバスは初なんですよ」

神山「ホント!? 今までに描いてなかった?」

内田「たまにキャンバスへ描くことはあったんですけど。ちゃんと展示するものとしてキャンバスに描くのは初めてですね。やはり難しさもありました」

神山「平たいけど、やっぱり面のザラつきがあるので、例えばアクリル板とかの板に比べると、全然、線が進まなかったでしょ」

内田「はい、進まなかったですね…。あと、ふだんは主にペンですが、慣れないアクリル絵の具というのも、なかなか進みませんでした。でも、やってみたかった技法にも取り組むことができたのは良かったです」

清永「内田くんはキャンバスでの展示が初めてなんですけど、アートとしてやっていくには次のステージへ行かなきゃいけないときが来るから。コレクターとしてもキャンバスっていうメディアはいいし、好きな人も多いから、やはり今回はキャンバスだったんですよね。
あと、シルクの作品を額に入れてガラス越しに見るだけではなく、キャンバスをそのまま飾るという経験もしてほしいなと思っていました。比較的、二人の作品は購入しやすい価格ですしね。ただ、アートの入口としてポスターや、Tシャツというメディアのグッズもあるので、何かのきっかけ作りになればいいなぁとも思っています」

神山「今晩もキャンバスだしね!」

内田「そうですね!」

清永「今晩、UNIONSODAで行われるイベントで二人のライブペインティングをするんですよ」

1499169197YJkL64NFTqtfpMF1499169172 ライブペインティングの模様。約1時間にわたり二人が交互に80号のキャンバスに描き、個性をぶつけ合った


── 二人による共作には、テーマなどを設けていたのでしょうか?

清永「最初に決まったのは、共作をこうしようということだけでした。昨年、福岡のTAGSTÅで行われた神山くんの個展へ行った時に、ケイトの作品を購入したんですけど、その作品が目の部分を塗りつぶしたようになっていたので、安易なアイデアではあるんですけど、そこに内田くんの描く矢印なんかを入れたらいいんじゃないかなと思ったのが最初だったんです」

内田「僕は、神山さんから送られてきたものを開封するまでは、どういう作品になっているか何も分からない状態でした。最初の打ち合わせで、絵柄とサイズ、16点という数だけが決まっていて、あとは送られてきたものを待つのみという感じで」

神山「ごめんね、送るのがすごい遅くなっちゃってね。送らなきゃと思いながら、最後になってしまって…」

内田「会期が始まる一週間前くらいに届いたので、シビレましたね(笑)。開封してみると、“マーブルチョコみたいにカラフルやん!どうしよう?”って。僕はモノクロの作品が多く、ふだん色を使わないから、色が多いのは苦手なんですよね…。なので、最初、開けてみて、そっと閉じるみたいな。ただ、タイムスケジュールなども考えると後回しにもできないしなぁと」

神山「俺が、後回しにし過ぎたからね…(笑)」

_DSC0328 _DSC0321 共作のKATE ANY LOVEシリーズ。直径330mmの木版に、二人がシルクスクリーンが用いて表現する


── 共作を仕上げ、展示してみて思ったこと

内田「設営の日、ここで開封した時に皆が“いいね”と言ってくれて落ち着きました。それまでは、ドキドキしていたので。自分だけの作品はいいんですけど、神山さんの作品の上から弄ってますからね。
ただ、この共作に関しては神山さんに引っ張られないようにとは思っていました。僕が、増々でやってしまうと、うるさくなってしまうから、どこで手を止めるかというのは考えました」

神山「逆だったら、どうだったかなとは考えてたね。僕は先にシルクスクリーンで刷って渡すだけだけど、後からの方が考えちゃうよね。真っ白じゃないし、でき上がったものに対してのせないといけないからね」

清永「内田くんの新たなポップさが出てきた感じで、いいバランスでのってますよ。個人のキャンバスの作品にもブルー系が使われていますし」


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── 個別作品について特徴を教えてください

清永「神山くんのことは20年以上前から知っているのですが、ポップな部分が得意だから、少しあっさりしてほしいという感じで、足し算より引き算でリクエストしました」

神山「ふだんは、足すとか引くとかはあまり考えてないんですけどね(笑)。制作していて“これで終わり”と思ったら、なるべく現場には置かずに展示までに見ないように閉じちゃう。見ていると、どんどん変化させたくなっちゃうでしょ」

清永「神山くんの作品は余白がないものが多いけど、これは〈作品:RAT FACE〉は余白があって、神山くんの中ではかなりミニマム!」

神山「余白の気持ち良さがありますね、なんとなくなんですけど(笑)。製作途中でアトリエを引っ越したのもあるかも。以前は、ゴチャゴチャと雑多な感じだったんだけど、今の場所は抜けをいっぱい作ったんだよね。それだからかなぁ。今後、余白のある作品が増えるかも!?」

内田「僕は、キャンバスに描くのは面白かったですね。先が見えない感じがして。あと、細長い方の作品は文字がトリミングされているんですけど、あれはインスタからなんですよね。自分の文字を撮ってインスタで拡大したときに、スクエアの画角で文字が切れる部分があるじゃないですか。あの感じが好きだなぁと思って」


_DSC0302 作品『RAT FACE』と神山氏


── 本展のポスターは、ウォーホルとバスキアのポスターをオマージュしていますが、
彼らは生涯に渡って刺激し合った仲とも聞きます。
アーティストにとって刺激し合える仲間がいることについてや、
お互いの個性について聞かせてください


神山「そういう人がいる方が、良いところの方が多いんじゃないかなぁ。文字を描く人は多くいるけれど、ウッチーの文字は彼にしかできない。同じ内容を自分が描いても全く違うしね。アーティスト同士が刺激し合えるってことは、すごくいいことだと思うね」

内田「僕も、そう思います。神山さんといえば、やはりシルクスクリーンですよね。共作をやるときにすごいなと思いました。僕、こんなにキレイにできないって。色のトーンやインクのバランスとか、神山さんは考えてないのかもしれないですけど、感覚的なものでバチッとハマるのは羨ましいなぁと思いますね」

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── 最後に本展の楽しみ方などがあれば聞かせてください

内田「このKIYONAGA&CO.で展示をさせてもらえたこと自体、僕にとっては楽しませてもらえていて、今の状態で満足しています。だから、来てくれる人もすんなり満足してもらえるんじゃないのかなぁと思うんですよね。外からも展示の様子を見ることができるのですが、それもすごくいいです」

神山「ガラス張りの白箱というかギャラリーとかで展示をしたこともあるんだけど、この気持ちよさは何だろうなと思いました。そこに、自分の作品が置かれているのは嬉しいし、お客さんが、それをどう感じてもらえるか楽しみ。中で見るのもよし、外で見るのもよしで、それで一つの空間になっている感じですね」

内田「自分の店で作品を見ているのと全然違って見えますからね。設営・設置に来てくれたSPOT FRAME WORKSの矢部くんも頑張ってくれましたし、それもあると思います。あと、こんなに表情の変わるスペースってなくないですか? 先日までのBIOTOPのポップアップとも全く違いますしね」

神山「あとは、ここにお客さんが入ってきて、作品と入り混じった感じというのも引いて見ることができるし。いろんな見方を楽しめるよね」

内田「ほんと、見ようと思えば、すごい近くから作品を見ることができるし、離れようと思ったら外から見ることもでき、その雰囲気も違うだろうし、昼と夜の表情も変わるので、それぞれの楽しみ方をしてもらいたいですね」

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PROFILE
神山隆二 RYUJI KAMIYAMA
1972年、東京生まれ。
シルクスクリーンアーティスト/ペインター/イラストレーター
90年代初頭、Tシャツの手刷り、古着のリメイク、ハンドメイドによる作品を中心としたブランド “FAMOUZ”の活動を裏原宿で10年行う。その後、路上から公共に至る場所にてライブペイントを中心としたアート活動を行い、2003年の東京・中目黒での個展を皮切りに、サンフランシスコ、ロサンジェルス、北欧などでエキシビジョンを開催。国内外で壁画やシルクスクリーン作品を残す。近年は、BlANKS名義のもとB品(陶器/ガラス)の再生プロジェクトや企業のショールーム、ウィンドウ、壁画を描き続けている。
ryujikamiyama.com



内田洋一朗 YOICHIRO UCHIDA
1978年、福岡県福岡市生まれ。
原種の蘭を中心に扱う “PLACERWORKSHOP” (プラセール)オーナー。 またラクガキと称し独特な字を描き、これまでに “TAKAHIROMIYASHITATheSoloist” などにアートワークを提供している。 2015年には “the POOL aoyama” 、 “STEVEN ALAN” とコラボレーションを行った。http://www.placer-workshop.com






“KAMIYAMA★UCHIDA” PAINTINGS
日程:開催中〜2017 7/23 (日)まで
会場:KIYONAGA&CO.
住所:福岡市中央区赤坂1-12-6
TEL:092-791-5100
Open:12:00-20:00
http://www.kiyonagaandco.com/

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